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第10話 羽化(3)
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「サトミ、よいお友だちができたのね」
いとおしそうにサトミを見つめながら、サトミの母親が言った。
「わたしの故郷の星では、次期女王候補に選ばれた者が、この地で数年間の生活をするしきたりがありました。竹内家の方々は、代々、その水先案内人をつとめてくれていたのです。
十数年前、しきたりに従い月神山に降り立ったわたしも、あなたと同じように街の人たちと馴染むことができず、ひとり悩む日々でした。
そんなとき、お父さまが手を差し伸べてくれたのです。わたしがこの星の人々と違うことを知りながら……」
サトミの父親が、そっと母親の肩に手をそえながら、おれに語りかけた。
「サトミを授かったおかげで、わたしは妻と結婚することができた。だが、そのために代々受け継いできた水先案内人のお役目を失ったことに激怒したおじいさまは、妻とともに妻の故郷の星に旅立つわたしを、決して許さなかった。
まだおさなかったサトミを成人するまで預けること。そしてサトミが成人し、わたしたちが迎えにくるその時まで、二度とこの地を踏まぬ覚悟をしめしてようやく、おじいさまは許してくれたのだ」
母親がその場にひざをついて、サトミに両手をのばす。
「わたしたちは中継地である月の宮殿から円盤に乗り、満月の夜にだけ、あなたを見に来ることが許されました。
けれど、あなたと別れ、あなたをこの手に抱けないまま過ごした時間は、永遠であるかのように感じました……。
家族は一緒に暮らすものです。おじいさまとお父さま、わたしたちとあなた……。もうあのような悲しい思いを、二度としたくありません」
母親が両手をのばし、サトミのことをじっと見つめている。
サトミとそっくりな、汚れのない澄んだ瞳だった。
「ケンヂくん、掃除のとき、助けてくれてありがとう」
とうとつにサトミが言った。
おれの手を強くにぎっていたサトミの手から、しだいに力が抜けていく。
とまどうおれに、サトミがつづける。
「掃除のとき、ゴミ捨てかわってくれたでしょう。わたし、すごくうれしかったよ。ちゃんと、ありがとうって、言ってなかったから……」
なんでそんなどうでもいいこと、こんなときに話すのだろう。
にぎっていた手をそっとはなし、一歩ずつ両親のもとへと向かうサトミの背中を、おれはただ見つめていた。
「わたし、きょうでこの街とお別れすること、すっかり覚悟してたんだ。でも、ケンヂくんが助けてくれたあのとき、もっとこの街にいたいと思ったの。
もっともっと、みんなと仲良くなりたかったって、すごく思ったの……」
サトミの声は、震えていた。
「駄々っ子みたいに、ただそうしたいって思ったの。もう時間がないのに……。簡単にはいかないのに……。子どものわたしには、どうすることもできないのに……」
しだいにサトミは、声をあげて泣きだした。
涙で顔をぐしゃぐしゃにぬらしながら、わあわあとおさない子どもように大声で泣いた。
サトミの両親は、黙ってそのすがたを見つめている。
「…………ありがとうケンヂくん」
ひとしきり泣いたあと、サトミはハンカチで涙をぬぐって、ふり返って微笑んだ。
「さようなら……」
いとおしそうにサトミを見つめながら、サトミの母親が言った。
「わたしの故郷の星では、次期女王候補に選ばれた者が、この地で数年間の生活をするしきたりがありました。竹内家の方々は、代々、その水先案内人をつとめてくれていたのです。
十数年前、しきたりに従い月神山に降り立ったわたしも、あなたと同じように街の人たちと馴染むことができず、ひとり悩む日々でした。
そんなとき、お父さまが手を差し伸べてくれたのです。わたしがこの星の人々と違うことを知りながら……」
サトミの父親が、そっと母親の肩に手をそえながら、おれに語りかけた。
「サトミを授かったおかげで、わたしは妻と結婚することができた。だが、そのために代々受け継いできた水先案内人のお役目を失ったことに激怒したおじいさまは、妻とともに妻の故郷の星に旅立つわたしを、決して許さなかった。
まだおさなかったサトミを成人するまで預けること。そしてサトミが成人し、わたしたちが迎えにくるその時まで、二度とこの地を踏まぬ覚悟をしめしてようやく、おじいさまは許してくれたのだ」
母親がその場にひざをついて、サトミに両手をのばす。
「わたしたちは中継地である月の宮殿から円盤に乗り、満月の夜にだけ、あなたを見に来ることが許されました。
けれど、あなたと別れ、あなたをこの手に抱けないまま過ごした時間は、永遠であるかのように感じました……。
家族は一緒に暮らすものです。おじいさまとお父さま、わたしたちとあなた……。もうあのような悲しい思いを、二度としたくありません」
母親が両手をのばし、サトミのことをじっと見つめている。
サトミとそっくりな、汚れのない澄んだ瞳だった。
「ケンヂくん、掃除のとき、助けてくれてありがとう」
とうとつにサトミが言った。
おれの手を強くにぎっていたサトミの手から、しだいに力が抜けていく。
とまどうおれに、サトミがつづける。
「掃除のとき、ゴミ捨てかわってくれたでしょう。わたし、すごくうれしかったよ。ちゃんと、ありがとうって、言ってなかったから……」
なんでそんなどうでもいいこと、こんなときに話すのだろう。
にぎっていた手をそっとはなし、一歩ずつ両親のもとへと向かうサトミの背中を、おれはただ見つめていた。
「わたし、きょうでこの街とお別れすること、すっかり覚悟してたんだ。でも、ケンヂくんが助けてくれたあのとき、もっとこの街にいたいと思ったの。
もっともっと、みんなと仲良くなりたかったって、すごく思ったの……」
サトミの声は、震えていた。
「駄々っ子みたいに、ただそうしたいって思ったの。もう時間がないのに……。簡単にはいかないのに……。子どものわたしには、どうすることもできないのに……」
しだいにサトミは、声をあげて泣きだした。
涙で顔をぐしゃぐしゃにぬらしながら、わあわあとおさない子どもように大声で泣いた。
サトミの両親は、黙ってそのすがたを見つめている。
「…………ありがとうケンヂくん」
ひとしきり泣いたあと、サトミはハンカチで涙をぬぐって、ふり返って微笑んだ。
「さようなら……」
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