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第7話 あやしい人影(2)
しおりを挟むドアの隙間から、なかをのぞく。
青白い光が、すすけたレースのカーテンをすかして、部屋のなかを照らしていた。
そこは、小さな部屋だった。
壁に備えつけられた本棚には、ずらりと本がならんでいる。
窓に面した机と、深々とした座り心地のよさそうなイス。奥には小ぶりなベッドが置かれていた。
足を一歩ふみいれたとき、机の上で、なにかきらりと光るものが目に入った。
それは月明かりを反射した、銀色の写真立て。
おりたたみ式になっていて、片面には、おじいさんに抱っこされた、おさない少女の写真が入っている。
写真の少女はサトミだろう。ぱっちりとした目もとに面影がある。
もう片面の写真に目をうつしたとき、おれの心臓はどきりと波打った。
そこには若い男が写っていて、それはまぎれもなく、肖像画の男だった。
もしかすると、この男はサトミの父親ではないだろうか? どことなく、となりの写真のおじいさんと、雰囲気がよく似ている。
「お母さんの写真はないのかな……」
部屋を見まわした、そのとき。
ガチャリ。
ふいに背後から聞こえた、ドアの閉まる音。
ふり返ると、あけ放しておいたはずのドアが、いつのまにか、ぴたりと閉じられている。
「きゃああああ!」
とつぜん聞こえたその悲鳴は、壁に備えつけられた本棚越しに聞こえてきた。
この壁のむこうは、リビングだ。
「サトミ……!」
いそいで部屋から出ようとドアに飛びつくも、なぜかドアノブは凍りついたように固まって動かない。
「サトミ、聞こえるか! いまそっちへ行くから!」
大声で叫びながら、どんどんとドアをたたく。
しかしドアは、押しても引いても、ぴくりともしなかった。
おれは部屋の奥まで大きく後ずさりすると、ドアに向かって突進した。
部屋の窓ガラスがびりびりと震えるほど、おもいっきり体当たりをしたが、逆におれがはじき返されて、部屋のなかにしりもちをついた。
まるでコンクリートの壁にぶつかっているみたいだ。
起き上がって、ふたたびドアに突進する。
なんどもなんども体当たりしたが、やっぱりドアは、びくともしなかった。
「おかしいぞ……。まるで、この部屋におびきよせられて、閉じこめられたみたいだ……」
もう一度、体当たりしようと後ずさりしたとき、床にのびた月明かりが目に入った。
机に飛びのり、月明かりがさしこむ窓に手をかける。
「よしっ!」
案の定、その窓は開くことができた。
大きくあけた窓から、ひんやりと冷たい風が部屋に吹きこむ。
目のまえに、群青色に染められた庭園が広がっている。
おれは裸足のまま窓から外に飛び降りると、冷たい感触のタイルの上を走り、館のわきへ向かった。
リビングの窓から、一刻も早く、サトミの無事な姿を確認したかったのだ。
しかし、館の側面にならんだ窓の内側には、どれもぴったりとカーテンが閉じられていた。
あせる気持ちをけんめいに抑えながら窓じゅうに目を走らせる。すると一カ所だけ、光の筋がもれ出している窓を見つけた。
カーテンとカーテンの合わさりにできた、ほんの数ミリしかないわずかな隙間。
顔を窓に押しあて、その隙間からなかをのぞきこむと、ほの暗い部屋のなか、テレビの明かりにぼんやりと照らされた、サトミのうしろ姿が見えた。
「サトミ! この窓をあけて!」
ばんばんと窓をたたきながら叫ぶが、サトミはまったく聞こえないのか、部屋のまんなかで立ちつくしている。
「サトミ! この窓を……」
そのときだった。
おぼろげなふたつの黒い人影が、サトミに近づいていくのが見えたのは――。
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