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第7話 あやしい人影(1)- 館2階のマップ -
しおりを挟む館二階の正面側にある渡り廊下は、ちょうど玄関の真上にあたる。
この場所にはバルコニーがあり、月明かりに照らされた広い庭園と、それらをかこむ黒い杉林がのぞめる。
窓に顔を近づけて、夜空を見上げた。
雲が流れている。
夜空のずいぶん高いところで、月がときおり顔をのぞかせていた。
満月は夕方の東の空にあらわれて、明け方の西の空へ姿をかくす――。
あの月が空にいるあいだ、おれはお姫さまを守ると誓った。
もちろん、お姫さまって言うのは……。
かあっと熱くなった頭をひとふりして、おれは渡り廊下を走り、右側の壁にならぶ三つのドアの、一番手前のドアをあけた。
「ここはたぶん、サトミの両親の部屋なんだろうな……」
ドアの隙間から、部屋をのぞく。
しかし月明かりに照らされていたのは、がらんとしてなにもない部屋。
カーテンもなければ、ベッドも家具もない。フローリングの床には埃がつもっていて、誰かが生活していた感じは、まったくしなかった。
おれは急いで、となりのドアをあけた。
むかい側の部屋と同じように、バスルームになっている。
しかし、ここも長いこと使われてなさそうな雰囲気だ。
ためしに洗面台の蛇口をひねってみたが、きゅうきゅうと乾いた音がするだけで、水は出てこなかった。
バスルームをとび出して、すぐさま、となりのドアに手をかけた。
右側の壁にならぶ一番奥のドア。二階にある最後のドアだ。
しかしそのドアは、鍵がかかっていてあけることはできなかった。
ぐるりと館のなかを見まわす。
おれの頭のなかには、もうすっかりこの館の間取り図ができあがっている。
このドアがあいたとしても、この部屋はとてもせまいはずだ。
「おかしいぞ。サトミの両親の部屋がない……」
カチャリ……。
その音は、一階から聞こえてきた。
吹き抜けから一階を見おろす。
一階左側の一番手前のドア。リビングダイニングキッチンのとなりの部屋のドアが、風にでも押されたかのように、すうっと開くのが見えた。
「まだ見ていない部屋は、あそこだけだ」
おれは誘われるように、その部屋を見つめたまま、ゆっくりと階段を下りた。
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