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第3章 裏世界
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しおりを挟むそれからしばらくして、美砂小学校は夏休みに入った。
美玲ちゃんは毎日昼近くまで惰眠をむさぼり、日中は猫のぼくよりダラけた生活をしている。
「美玲ちゃん、今日は午後から、この部屋で放課後怪奇クラブの会合があるんでしょ? もう起きないと、みんな来ちゃうよ」
今日も美玲ちゃんは昼近くまで寝ているつもりらしい。ベッドの上で、干されたアジの開きのように大の字で干からびながら、もにょもにょとこたえた。
「なんでいつもわたしの家なのよ。暑いし、めんどくさい……。萌の家でやればいいじゃない。広いし、エアコンも効いて涼しいんだから……」
「毎回毎回、みんなに押し切られる美玲ちゃんが悪いんでしょ。ほら、しっかり起きて」
美玲ちゃんの額を、ネコパンチでぽんぽん叩いていると、階段を激しく踏み鳴らす音が聞こえてきた。
身の毛もよだつこの恐ろしい足音は、まぎれもなくママさんのものだ。
あわてふためいて飛び起きた美玲ちゃんだったが、時すでに遅し。
部屋のドアを開けたママさんが、仁王立ちで美玲ちゃんを見下ろしている。
「いつまで寝ているのっ! さっさと着替えなさいっ!」
ママさんは、これ以上ないほど優秀な目覚まし時計だ。その怒鳴り声から一分もしないうちに、美玲ちゃんはしっかり着替えて、部屋の真ん中で正座していた。
部屋のドアを背に立つママさんが、腕を組んで話し始める。
「一学期、美玲の成績は散々でしたね。
ママは苦しい家計をなんとかやりくりして、夏休みの毎週月曜から金曜日まで、家庭教師に来てもらうことにしました。感謝しなさい」
まるで、交差点の幽霊と再会したような表情で、ママさんを見つめる美玲ちゃん。
ママさんは構わずドアを開けて、家庭教師をまねき入れた。
「大変、お待たせいたしました。さあどうぞ、お入りになってください」
そろそろと部屋に入ってくる、大学生くらいの青年。
すらりとした長身の青年は、清潔感のある服装と、とても上品そうな顔立ちにメガネをかけた、まるでアイドルのような好青年だ。
でも、なんか……?
「先生には、夏休みの学習プランをしっかり作ってもらいましたから、美玲は言われた通りに勉強するのよ。では、センセ、あとはよろしく~」
ママさんが部屋を出て行く。
さわやかな笑みを浮かべ、美玲ちゃんを見つめる家庭教師の青年。
それに引きかえ、美玲ちゃんはいぶかしそうに青年を見上げている。
「あのぉ、どこかでお会いしましたっけ……?」
そうそう、それそれ!
ぼくが思っていたことを、美玲ちゃんが言ってくれた。
「なんだ、ぼくの顔を忘れてしまったのか? ひさしぶり! |無事で何よりだよ」
青年は、薄気味悪いほどの笑顔で美玲ちゃんの手を取り、握手をした。
「シショウだよ、四聖《シショウ》 進《ススム》。約束通り、協力してもらいにきたよ」
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