化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
56 / 61
第3章 裏世界

19

しおりを挟む

 それからしばらくして、美砂みすな小学校は夏休みに入った。
 美玲みれいちゃんは毎日昼近くまで惰眠だみんをむさぼり、日中にっちゅうは猫のぼくよりダラけた生活をしている。

美玲みれいちゃん、今日は午後から、この部屋で放課後ほうかご怪奇かいきクラブの会合かいごうがあるんでしょ? もう起きないと、みんな来ちゃうよ」

 今日も美玲みれいちゃんは昼近くまで寝ているつもりらしい。ベッドの上で、されたアジの開きのように大の字でからびながら、もにょもにょとこたえた。

「なんでいつもわたしの家なのよ。暑いし、めんどくさい……。もえの家でやればいいじゃない。広いし、エアコンもいてすずしいんだから……」

「毎回毎回、みんなに押し切られる美玲みれいちゃんが悪いんでしょ。ほら、しっかり起きて」

 美玲みれいちゃんのひたいを、ネコパンチでぽんぽんたたいていると、階段をはげしくらす音が聞こえてきた。
 身の毛もよだつこのおそろしい足音は、まぎれもなくママさんのものだ。

 あわてふためいて飛び起きた美玲みれいちゃんだったが、時すでにおそし。
 部屋のドアを開けたママさんが、仁王立におうだちで美玲みれいちゃんを見下ろしている。


「いつまで寝ているのっ! さっさと着替きがえなさいっ!」


 ママさんは、これ以上ないほど優秀ゆうしゅうな目覚まし時計だ。その怒鳴り声から一分もしないうちに、美玲みれいちゃんはしっかり着替きがえて、部屋の真ん中で正座せいざしていた。
 部屋のドアをに立つママさんが、腕を組んで話し始める。

「一学期、美玲みれい成績せいせき散々さんざんでしたね。
 ママは苦しい家計をなんとかやりくりして、夏休みの毎週月曜から金曜日まで、家庭教師かていきょうしに来てもらうことにしました。感謝しなさい」

 まるで、交差点こうさてん幽霊ゆうれい再会さいかいしたような表情で、ママさんを見つめる美玲みれいちゃん。
 ママさんはかまわずドアを開けて、家庭教師かていきょうしをまねきれた。

「大変、お待たせいたしました。さあどうぞ、お入りになってください」

 そろそろと部屋に入ってくる、大学生くらいの青年。
 すらりとした長身の青年は、清潔感のある服装と、とても上品そうな顔立ちにメガネをかけた、まるでアイドルのような好青年こうせいねんだ。

 でも、なんか……?

「先生には、夏休みの学習プランをしっかり作ってもらいましたから、美玲みれいは言われた通りに勉強するのよ。では、センセ、あとはよろしく~」

 ママさんが部屋を出て行く。

 さわやかなみをかべ、美玲みれいちゃんを見つめる家庭教師かていきょうしの青年。
 それに引きかえ、美玲みれいちゃんはいぶかしそうに青年を見上げている。

「あのぉ、どこかでお会いしましたっけ……?」

 そうそう、それそれ!
 ぼくが思っていたことを、美玲みれいちゃんが言ってくれた。

「なんだ、ぼくの顔を忘れてしまったのか? ひさしぶり! |無事で何よりだよ」

 青年は、薄気味悪うすきみわるいほどの笑顔で美玲みれいちゃんの手を取り、握手あくしゅをした。

「シショウだよ、四聖《シショウ》 進《ススム》。約束通り、協力してもらいにきたよ」




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

二条姉妹の憂鬱 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
児童書・童話
★巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか?★ 相棒と軽快な掛け合いでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。 激闘の末、魔鬼を封印したメグルとモグラは、とある街で探偵事務所を開いていた。 そこへ憔悴した初老の男が訪れる。男の口から語られたのはオカルトじみた雑居ビルの怪事件。 現場に向かったメグルとモグラは、そこで妖しい雰囲気を持つ少女と出会う。。。 序章 第1章 再始動 第2章 フィットネスジム 第3章 宵の刻 第4章 正体 第5章 つながり 第6章 雨宮香澄 第7章 あしながおじさんと女の子 第8章 配達 第9章 決裂 第10章 小野寺さん 第11章 坂田佐和子 第12章 紬の家 第13章 確信にも近い信頼感 第14章 魔鬼 第15章 煉獄長 終章 

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

処理中です...