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第3章 裏世界
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「美玲! こら、美玲! いつまで寝ているの、起きなさいっ!」
ママさんの怒鳴り声で、ぼくは目を覚ました。
飛び起きた美玲ちゃんも、事態をつかめていない様子で、部屋の中をきょろきょろと見回している。
いつのまにか、ぼくらは美玲ちゃんの部屋のベッドに寝ていたのだ。
「萌は? 萌はどこ?」
そう叫んだ美玲ちゃんに、ママさんがやさしく微笑みかけた。
「いつまで寝ぼけているの? 萌ちゃんは病院でしょ」
落胆に染まる美玲ちゃんの顔を、ぼくは見ていられなかった。
ぼくらは昨夜、いったい何をしていたのだろう?
すべて夢だったのだろうか……?
毛だらけの丸い猫の手を見つめながら、ぼくがため息をついたとき、
「さっさと顔を洗って目を覚ましなさい。萌ちゃんを見習ってね」
ママさんの意外な言葉に、ぼくたちは目を丸くした。
「お見舞いに行くでしょ? 萌ちゃん、待ってるわよ」
そこからさきは、もうお祭り騒ぎのようだった。
はちゃめちゃに喜びすぎて、どう説明すればいいか、わからないほどに。
ママさんの運転する車で、駅前にある総合病院へ向かう。
あいかわらずママさんは、美玲ちゃんと一緒のときは、ぼくのことを無視する。
まったく、おかしなひとだよね……。
病院に着くなり、ママさんは、いまにも走り出しそうな美玲ちゃんの襟首をつかんで静かに歩かせた。その姿はまるで、やんちゃな子猫が親猫に首筋を甘噛みされているみたいで、ちょっと笑えた。
「美玲ちゃん!」
病室で美玲ちゃんの顔を見るなり、ベッドから飛び出しそうになった萌ちゃんと、しっかりと抱き合う美玲ちゃん。
「ごめんね、萌……。痛かったでしょ? 怖かったよね?」
「全然! 気が付いたらベッドに寝ていて、どこも痛くないの。体のアザもすぐ消えるって言われたし、車とぶつかって意識がなかったなんて、ウソみたい!」
萌ちゃんの言葉が本当なのは、うしろで立ち話している、ママさんと萌ちゃんの両親の、笑顔あふれる会話を見れば明らかだった。
昨夜までは生死をさまよう、かなり危険な状態だったそうだが、きょうの朝、とつぜんフツーに目を覚ましたらしい。「おはよう!」とでも言わんばかりに。
「萌が無事で、わたし超うれしい!」
涙を流しながら笑顔で抱き合う姿を見て、ぼくは本当に、このふたりが仲良しなんだと実感した。見ているこっちでさえ、もらい泣きで涙がこぼれそうになる。
そう思った瞬間――。
「優斗くんっ!!」
とつぜん美玲ちゃんを突き飛ばして、たずねてきた優斗くんに両手をのばす萌ちゃん。ちなみに、優斗くんのうしろで、うれし涙を流しまくっていたチャーシューのことは、目に入らなかったみたい……。
恥ずかしがる優斗くんの腕を引っぱって、無理矢理抱きつく萌ちゃん。
ぼくは、尻餅をついている美玲ちゃんに駆けより、こっそり話しかけた。
「萌ちゃん、無事でよかったね。……でも、あいかわらずだね」
美玲ちゃんが腰をさすりながら、ため息まじりに立ち上がる。
「今日は特別よ、特別。優斗くんは貸し切りにしてあげる。今日だけはね」
そう言いながらも、優斗くんにじゃれつく萌ちゃんを、美玲ちゃんは温かいまなざしで見つめていた。
ママさんの怒鳴り声で、ぼくは目を覚ました。
飛び起きた美玲ちゃんも、事態をつかめていない様子で、部屋の中をきょろきょろと見回している。
いつのまにか、ぼくらは美玲ちゃんの部屋のベッドに寝ていたのだ。
「萌は? 萌はどこ?」
そう叫んだ美玲ちゃんに、ママさんがやさしく微笑みかけた。
「いつまで寝ぼけているの? 萌ちゃんは病院でしょ」
落胆に染まる美玲ちゃんの顔を、ぼくは見ていられなかった。
ぼくらは昨夜、いったい何をしていたのだろう?
すべて夢だったのだろうか……?
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ママさんの意外な言葉に、ぼくたちは目を丸くした。
「お見舞いに行くでしょ? 萌ちゃん、待ってるわよ」
そこからさきは、もうお祭り騒ぎのようだった。
はちゃめちゃに喜びすぎて、どう説明すればいいか、わからないほどに。
ママさんの運転する車で、駅前にある総合病院へ向かう。
あいかわらずママさんは、美玲ちゃんと一緒のときは、ぼくのことを無視する。
まったく、おかしなひとだよね……。
病院に着くなり、ママさんは、いまにも走り出しそうな美玲ちゃんの襟首をつかんで静かに歩かせた。その姿はまるで、やんちゃな子猫が親猫に首筋を甘噛みされているみたいで、ちょっと笑えた。
「美玲ちゃん!」
病室で美玲ちゃんの顔を見るなり、ベッドから飛び出しそうになった萌ちゃんと、しっかりと抱き合う美玲ちゃん。
「ごめんね、萌……。痛かったでしょ? 怖かったよね?」
「全然! 気が付いたらベッドに寝ていて、どこも痛くないの。体のアザもすぐ消えるって言われたし、車とぶつかって意識がなかったなんて、ウソみたい!」
萌ちゃんの言葉が本当なのは、うしろで立ち話している、ママさんと萌ちゃんの両親の、笑顔あふれる会話を見れば明らかだった。
昨夜までは生死をさまよう、かなり危険な状態だったそうだが、きょうの朝、とつぜんフツーに目を覚ましたらしい。「おはよう!」とでも言わんばかりに。
「萌が無事で、わたし超うれしい!」
涙を流しながら笑顔で抱き合う姿を見て、ぼくは本当に、このふたりが仲良しなんだと実感した。見ているこっちでさえ、もらい泣きで涙がこぼれそうになる。
そう思った瞬間――。
「優斗くんっ!!」
とつぜん美玲ちゃんを突き飛ばして、たずねてきた優斗くんに両手をのばす萌ちゃん。ちなみに、優斗くんのうしろで、うれし涙を流しまくっていたチャーシューのことは、目に入らなかったみたい……。
恥ずかしがる優斗くんの腕を引っぱって、無理矢理抱きつく萌ちゃん。
ぼくは、尻餅をついている美玲ちゃんに駆けより、こっそり話しかけた。
「萌ちゃん、無事でよかったね。……でも、あいかわらずだね」
美玲ちゃんが腰をさすりながら、ため息まじりに立ち上がる。
「今日は特別よ、特別。優斗くんは貸し切りにしてあげる。今日だけはね」
そう言いながらも、優斗くんにじゃれつく萌ちゃんを、美玲ちゃんは温かいまなざしで見つめていた。
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