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第3章 裏世界
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美玲ちゃんに声をかけたのは、長身でぼさぼさ頭の、無精髭を生やした男だった。
美玲ちゃんの横に立って、黒い男を悠然と見下ろしている。
「こうなっては、もうどうしようもない……。さあ、あぶないから下がってなさい」
無精髭の男はそう言うと、美玲ちゃんの肩を抱いて、うしろに下がらせた。
美玲ちゃんは糸が切れた人形のように、その場に崩れてしまった。
無精髭の男が、黒い男に向かって歩き出す。
それにこたえるように、黒い男も、ゆっくりと立ち上がった。
焼け焦げた服や皮膚が、ぼろぼろと崩れ落ちるなか、墨のように焼け焦げた顔を無精髭の男に向けたとたん、黒い男は真っ青な炎に包まれた。
苦しそうにもだえる男の断末魔が、またも頭の中に響いてくる。
「やめて!」 美玲ちゃんが叫んだ。
「苦しそうよ! 助けてあげて!」
しかし青い炎のまえに立つ、無精髭の男のシルエットは微動だにしなかった。
炎に包まれ焼け崩れていく黒い男の姿を、じっと見つめている。
やがてすべてが燃え尽きてしまったあと、とつぜん消えていた街灯がいっせいに灯りをともした。
そのあとは、もう何事もなかったように、数台の車が行き交う交差点にもどった。
「あんなやり方、残酷すぎる! どうしてあんなことするの?」
無精髭の男の背中に、美玲ちゃんが怒鳴る。
すると背中を向けたまま、無精髭の男が静かにこたえた。
「きみの信条は知っている。霊と話をして成仏させることだ。だが、言葉が通じなければ諭しようもない。救うにしても、彼は人を殺めすぎた」
美玲ちゃんは無精髭の男を強引にふり向かせて、詰め寄った。
「だからっておかしいよ! あの人だって、きっとつらい死に方をして、ああなってしまったのに!」
「ああ、そうだ。おかしすぎる。この世界はバグが多すぎるよ」
「バグ?」 美玲ちゃんが眉をしかめた。
「きみたちが大好きなコンピューター用語でいうところの、不具合だ。
幽霊なんて存在が生じてしまうのも、この世界が不安定で、不完全な世界だからだ。
ぼくはこの世界をどうにかして、完璧なものにつくり直したいと思っているんだよ。
美玲さん、どうかぼくに、力を貸してくれないか?」
ぼくには無精髭の男が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
美玲ちゃんも、まるで話が通じない相手だと感じているらしい。
「わたしは萌を助けたら、もう何も関わりたくない。これ以上、大切な人が巻き込まれるのは見たくないの」
「きみの親友の萌さんの魂は、もうここにはいないよ」
美玲ちゃんの横に立って、黒い男を悠然と見下ろしている。
「こうなっては、もうどうしようもない……。さあ、あぶないから下がってなさい」
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焼け焦げた服や皮膚が、ぼろぼろと崩れ落ちるなか、墨のように焼け焦げた顔を無精髭の男に向けたとたん、黒い男は真っ青な炎に包まれた。
苦しそうにもだえる男の断末魔が、またも頭の中に響いてくる。
「やめて!」 美玲ちゃんが叫んだ。
「苦しそうよ! 助けてあげて!」
しかし青い炎のまえに立つ、無精髭の男のシルエットは微動だにしなかった。
炎に包まれ焼け崩れていく黒い男の姿を、じっと見つめている。
やがてすべてが燃え尽きてしまったあと、とつぜん消えていた街灯がいっせいに灯りをともした。
そのあとは、もう何事もなかったように、数台の車が行き交う交差点にもどった。
「あんなやり方、残酷すぎる! どうしてあんなことするの?」
無精髭の男の背中に、美玲ちゃんが怒鳴る。
すると背中を向けたまま、無精髭の男が静かにこたえた。
「きみの信条は知っている。霊と話をして成仏させることだ。だが、言葉が通じなければ諭しようもない。救うにしても、彼は人を殺めすぎた」
美玲ちゃんは無精髭の男を強引にふり向かせて、詰め寄った。
「だからっておかしいよ! あの人だって、きっとつらい死に方をして、ああなってしまったのに!」
「ああ、そうだ。おかしすぎる。この世界はバグが多すぎるよ」
「バグ?」 美玲ちゃんが眉をしかめた。
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ぼくには無精髭の男が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
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「わたしは萌を助けたら、もう何も関わりたくない。これ以上、大切な人が巻き込まれるのは見たくないの」
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