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第3章 裏世界
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みんなが寝静まったころ、美玲ちゃんがむくりとベッドから体を起こした。
気付かれないよう明かりをつけず、音も立てずに着替えているけど、ぼくはとっくに気付いている。
テーブルの上で寝たふりをしながら、しばらく様子を眺めていた。
猫はもともと、夜行性だからね。
「まさか、ぼくまで置いていく気じゃないよね?」
暗闇のなか、一瞬、びくっと驚いたシルエットが見えたけど、美玲ちゃんは、ごまかすように着替えを続けた。
「優斗くんを想ってのことだろうけど、あの言い方じゃ嫌われちゃうよ」
「ミッケ。あんた、頭打って気絶するのね?」
着替え終わった美玲ちゃんは、暗闇のなか、ぼくに顔を近づけて言った。
「でも、死んだりはしないのよね? もう死んでるから」
そう続けてぼくを抱き上げると、とつぜん ゴンッ! と、机の角にぼくの後頭部をぶち当てた。
うすれゆく意識のなかで、美玲ちゃんのささやく声が聞こえてくる。
「もう大好きなひとを巻き込みたくないのよ。お家で待っててね、ミッケ」
チュッと、ぼくの鼻先にキスをして、美玲ちゃんは部屋を出て行った。
*
はっと、意識を取り戻したぼくは、反射的に時計を見た。
ベッドに転がった目覚まし時計の針は、夜中の二時半を指している。
急いで階段を駆け下り、暗い廊下を風のように走って玄関へ向う。
と、そのとき、ぼくのしっぽを、誰かが、ぎゅっと踏んづけた。
「ぎゃっ!」
ふり返ると、暗闇のなかにママさんが立っていた。
「こ、こんばんは……」
恐る恐る挨拶をして、その場を逃れようとしたぼくに、ママさんはしゃがんで話しかけてきた。
「美玲のこと、頼んだわよ。あんまり無茶しないように、しっかり見張っていてね」
ぼくは驚いてしまった。
「ママさん、美玲ちゃんが出かけたこと、知ってるんですか?」
「まだまだ子どものくせに、親の目を盗もうなんざ甘いわよ。
萌ちゃんのことは残念だわ。今回のことは美玲にとっても大事な試練なの。
頼むわよ、ミッケ」
「しょ、承知しました!」
最敬礼をして、一目散に玄関に向かって走り出そうとしたぼくは、はっと気が付いて、ふり返る。
「ママさん、なんでぼくが、ミッケって……」
両手を腰に当てて立ち上がったママさんは、当たりまえのようにこう言った。
「わたしがあんたに付けた名前でしょう? ほら、さっさと行け、ミッケ!」
ぼくはなんだか頭が混乱しそうになったけど、とりあえずいまは、美玲ちゃんのところへ向かうことが一番だった。
気付かれないよう明かりをつけず、音も立てずに着替えているけど、ぼくはとっくに気付いている。
テーブルの上で寝たふりをしながら、しばらく様子を眺めていた。
猫はもともと、夜行性だからね。
「まさか、ぼくまで置いていく気じゃないよね?」
暗闇のなか、一瞬、びくっと驚いたシルエットが見えたけど、美玲ちゃんは、ごまかすように着替えを続けた。
「優斗くんを想ってのことだろうけど、あの言い方じゃ嫌われちゃうよ」
「ミッケ。あんた、頭打って気絶するのね?」
着替え終わった美玲ちゃんは、暗闇のなか、ぼくに顔を近づけて言った。
「でも、死んだりはしないのよね? もう死んでるから」
そう続けてぼくを抱き上げると、とつぜん ゴンッ! と、机の角にぼくの後頭部をぶち当てた。
うすれゆく意識のなかで、美玲ちゃんのささやく声が聞こえてくる。
「もう大好きなひとを巻き込みたくないのよ。お家で待っててね、ミッケ」
チュッと、ぼくの鼻先にキスをして、美玲ちゃんは部屋を出て行った。
*
はっと、意識を取り戻したぼくは、反射的に時計を見た。
ベッドに転がった目覚まし時計の針は、夜中の二時半を指している。
急いで階段を駆け下り、暗い廊下を風のように走って玄関へ向う。
と、そのとき、ぼくのしっぽを、誰かが、ぎゅっと踏んづけた。
「ぎゃっ!」
ふり返ると、暗闇のなかにママさんが立っていた。
「こ、こんばんは……」
恐る恐る挨拶をして、その場を逃れようとしたぼくに、ママさんはしゃがんで話しかけてきた。
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ぼくは驚いてしまった。
「ママさん、美玲ちゃんが出かけたこと、知ってるんですか?」
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「ママさん、なんでぼくが、ミッケって……」
両手を腰に当てて立ち上がったママさんは、当たりまえのようにこう言った。
「わたしがあんたに付けた名前でしょう? ほら、さっさと行け、ミッケ!」
ぼくはなんだか頭が混乱しそうになったけど、とりあえずいまは、美玲ちゃんのところへ向かうことが一番だった。
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