化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏

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第3章 裏世界

07

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 みんなが寝静まったころ、美玲みれいちゃんがむくりとベッドから体を起こした。
 気付かれないよう明かりをつけず、音も立てずに着替えているけど、ぼくはとっくに気付いている。
 テーブルの上で寝たふりをしながら、しばらく様子を眺めていた。
 猫はもともと、夜行性やこうせいだからね。


「まさか、ぼくまで置いていく気じゃないよね?」

 暗闇のなか、一瞬、びくっと驚いたシルエットが見えたけど、美玲みれいちゃんは、ごまかすように着替えを続けた。

優斗ゆうとくんを想ってのことだろうけど、あの言い方じゃ嫌われちゃうよ」


「ミッケ。あんた、頭打って気絶するのね?」

 着替え終わった美玲みれいちゃんは、暗闇のなか、ぼくに顔を近づけて言った。

「でも、死んだりはしないのよね? もう死んでるから」

 そう続けてぼくを抱き上げると、とつぜん ゴンッ! と、机の角にぼくの後頭部をぶち当てた。
 うすれゆく意識のなかで、美玲みれいちゃんのささやく声が聞こえてくる。

「もう大好きなひとを巻き込みたくないのよ。おうちで待っててね、ミッケ」

 チュッと、ぼくの鼻先にキスをして、美玲みれいちゃんは部屋を出て行った。



           *



 はっと、意識を取り戻したぼくは、反射的に時計を見た。
 ベッドに転がった目覚まし時計の針は、夜中の二時半を指している。

 急いで階段を駆け下り、暗い廊下を風のように走って玄関へ向う。
 と、そのとき、ぼくのしっぽを、誰かが、ぎゅっと踏んづけた。

「ぎゃっ!」

 ふり返ると、暗闇のなかにママさんが立っていた。

「こ、こんばんは……」

 恐る恐る挨拶をして、その場を逃れようとしたぼくに、ママさんはしゃがんで話しかけてきた。

美玲みれいのこと、頼んだわよ。あんまり無茶しないように、しっかり見張っていてね」

 ぼくは驚いてしまった。
「ママさん、美玲みれいちゃんが出かけたこと、知ってるんですか?」

「まだまだ子どものくせに、親の目を盗もうなんざ甘いわよ。
 もえちゃんのことは残念だわ。今回のことは美玲みれいにとっても大事な試練なの。
 頼むわよ、ミッケ」

「しょ、承知しました!」
 最敬礼をして、一目散に玄関に向かって走り出そうとしたぼくは、はっと気が付いて、ふり返る。

「ママさん、なんでぼくが、ミッケって……」

 両手を腰に当てて立ち上がったママさんは、当たりまえのようにこう言った。

「わたしがあんたに付けた名前でしょう? ほら、さっさと行け、ミッケ!」

 ぼくはなんだか頭が混乱しそうになったけど、とりあえずいまは、美玲みれいちゃんのところへ向かうことが一番だった。




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