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第3章 裏世界
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「あら、いらっしゃ~い!」
美玲ちゃんの家に着くと、以前と同じようにママさんが笑顔で飛び出してきた。
きょろきょろと辺りを見回しながら、ママさんの笑顔が消えていく。
「優斗くんはとつぜん都合ができて来れなくなったのよママ。……じゃあみんな、あがって」
素っ気なく言った美玲ちゃんに続いて、ていねいにおじぎをしながら、萌ちゃんとチャーシューが家に上がっていく。
そのあとに続こうとしたぼくのしっぽを、誰かが踏んづけた。
「ぎゃんっ!」
見上げると、ママさんが鬼の形相でぼくを睨んでいた。
「だから言ったのよね。気を抜いていると、いつのまにか仲良くなっちゃうって……」
「ええと、なんのことでしょう……」
いままで、散々ぼくのことを無視していたママさんが、ようやく話しかけてきてくれたのは嬉しかったけど、そのただならぬ雰囲気に、ぼくは身の危険を察知した。
ママさんのサンダルからしっぽを引き抜き、そろそろと家へ上がろうとする。
そのまえを、ママさんが仁王立ちで立ちはだかった。
「あんた、我が家に居候させてもらっているわよね? わたしに無断で!」
「い、いえ! 何度か挨拶させてもらってますが、きっと、ぼくの声が小さかったのでしょうね……。改めまして、化け猫のミッケと申します。以後、お見知りおきを……」
申し訳なさそうに言ったぼくの目のまえで、ダンッ! とサンダルの足音が響く。
「知ってるのよ。あんたが茶箪笥のお菓子を、ときどきつまみ食いしていることぐらい!」
「たたた、たまに頂いていますが、じっさいに減ることはないと思いますので……」
恐怖でぶるぶると震えながら釈明するぼくを睨みつけて、ママさんは怒鳴った。
「見張りなさい! これからも我が家に居候したいなら、これ以上、あの薫って子と美玲が仲良くならないよう見張りなさい!
そして、美玲と優斗くんが将来結婚できるよう、仲を取り持つこと! 以上!」
「しょ、承知しましたっ!」
ぼくは背筋をのばして敬礼すると、ママさんの足のあいだをすり抜けた。
ウサギのようにはねながら、階段を駆けあがる。
「恐ろしい、恐ろしすぎる! さすが美玲ちゃんのママさんだ!
それにしても、美玲ちゃんとチャーシューが仲良くなることはないだろうけど、優斗くんとの仲を取り持つのは、ちょっと、むずかしそうだなぁ……」
ママさんに存在を認めてもらったのは嬉しいけど、ぼくは、とんでもない任務を押しつけられてしまった。
美玲ちゃんの家に着くと、以前と同じようにママさんが笑顔で飛び出してきた。
きょろきょろと辺りを見回しながら、ママさんの笑顔が消えていく。
「優斗くんはとつぜん都合ができて来れなくなったのよママ。……じゃあみんな、あがって」
素っ気なく言った美玲ちゃんに続いて、ていねいにおじぎをしながら、萌ちゃんとチャーシューが家に上がっていく。
そのあとに続こうとしたぼくのしっぽを、誰かが踏んづけた。
「ぎゃんっ!」
見上げると、ママさんが鬼の形相でぼくを睨んでいた。
「だから言ったのよね。気を抜いていると、いつのまにか仲良くなっちゃうって……」
「ええと、なんのことでしょう……」
いままで、散々ぼくのことを無視していたママさんが、ようやく話しかけてきてくれたのは嬉しかったけど、そのただならぬ雰囲気に、ぼくは身の危険を察知した。
ママさんのサンダルからしっぽを引き抜き、そろそろと家へ上がろうとする。
そのまえを、ママさんが仁王立ちで立ちはだかった。
「あんた、我が家に居候させてもらっているわよね? わたしに無断で!」
「い、いえ! 何度か挨拶させてもらってますが、きっと、ぼくの声が小さかったのでしょうね……。改めまして、化け猫のミッケと申します。以後、お見知りおきを……」
申し訳なさそうに言ったぼくの目のまえで、ダンッ! とサンダルの足音が響く。
「知ってるのよ。あんたが茶箪笥のお菓子を、ときどきつまみ食いしていることぐらい!」
「たたた、たまに頂いていますが、じっさいに減ることはないと思いますので……」
恐怖でぶるぶると震えながら釈明するぼくを睨みつけて、ママさんは怒鳴った。
「見張りなさい! これからも我が家に居候したいなら、これ以上、あの薫って子と美玲が仲良くならないよう見張りなさい!
そして、美玲と優斗くんが将来結婚できるよう、仲を取り持つこと! 以上!」
「しょ、承知しましたっ!」
ぼくは背筋をのばして敬礼すると、ママさんの足のあいだをすり抜けた。
ウサギのようにはねながら、階段を駆けあがる。
「恐ろしい、恐ろしすぎる! さすが美玲ちゃんのママさんだ!
それにしても、美玲ちゃんとチャーシューが仲良くなることはないだろうけど、優斗くんとの仲を取り持つのは、ちょっと、むずかしそうだなぁ……」
ママさんに存在を認めてもらったのは嬉しいけど、ぼくは、とんでもない任務を押しつけられてしまった。
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