38 / 61
第3章 裏世界
01
しおりを挟む何時間眠ったんだろう。
目を醒まして窓に目をやると外が暗く、夕方以降であることは間違いないなと思った。
ふと俺のベッドに誰か肘をついて眠っている人影が見えた。
あれ?姉貴帰ったんじゃ…
いや、違う…
「えっ…」
あ、哀沢くん!?
待って待って待って待って…
なんで…なんでここにいるの!?
いつから?
いま何時?
時計を見ると18時だった。
起こした方がいいのかなぁ…
久しぶりに見る哀沢くんはやっぱりかっこよくて、ずっと見ていたいと思った。
そういや部屋乾燥してるんだよね。
飲み物買ってきてあげようかな。
ちょうど夕食の時間だし、部屋で食べないで食堂で食べてからついでに夜の検温をして部屋に戻ろう。
せっかく寝てるのに起こしたら悪いもんね。
てか哀沢くん寝起き悪いし。
俺は哀沢くんを起こさないように、哀沢くんが寝てる反対側からベッドを降りて部屋を出た。
面会名簿を確認すると、哀沢くんは13時頃ここに来ていたらしい。
え?5時間も俺を起こさずいたの?
申し訳ないなぁ。
姉貴が連絡したのかな?
俺は食堂に夕食を運んでもらって、夜の検温報告して、ジュースを買って部屋に戻った。
部屋のドアを開けると、哀沢くんが起きたばかりだった。
「あ!哀沢くん起こしちゃった?」
振り返った哀沢くんは俺を見て驚いていた。
「起きたら哀沢くんが寝ててびっくりしたよ。面会名簿見てきたら13時ぐらいに来てたんだね。俺その前までは起きてたんだけど寝ちゃったんだ」
いつも通りの俺みたいに、明るく話した。
ちょっと気まずくて、俺は哀沢くんに近づかずドアの傍で会話を続けた。
すると哀沢くんはこっちに駆け寄り、近づいてきた。
「起こしてくれてよかったのに。哀沢くんの好きなコーラ売り切れてたからココアでもい…」
俺の言葉を遮り、大きな腕で抱きしめる。
力が抜けて床にジュースが落ち、部屋にその音が響いた。
「哀沢くん…?」
沈黙が続いた。
哀沢くんが俺を抱き締める力は変わらない。
どうしたんだろう。
落ち着くなぁ哀沢くんの胸の中。
でもさ、
「俺ね、別に死んでもよかったんだ…」
俺は諦めなきゃいけないんだよね。
「死ぬ前に哀沢くんに抱いてもらえたから。それだけで満足だったから後悔してない」
俺の発言に少し驚いたのか、哀沢くんの力が緩んだ。
昔から死んでもいいって思ってた。
人生退屈だって。
でも…
「でも…今日哀沢くん見ちゃったら、やっぱりダメだぁ。まだ好きだから苦しい」
今は生きて哀沢くんの傍にいたい。
あーあ、
せっかく忘れられそうだと思ったのに。
全然ダメじゃん、涙止まんない。
めんどくさいやつだって嫌われちゃうよ。
「だから放して。頑張って諦めるから。哀沢くんのこと。これ以上好きにさせないで」
俺は哀沢くんの腕から無理やり抜けようと抵抗したけど、哀沢くんは放してくれなかった。
「放したくねぇんだよ」
俺が予想してなかった言葉が返ってきた。
「山田…そのまま黙って俺の話を聞いてくれ」
そして哀沢くんは自分の過去を全て話し始めた。
「雅彦って…あの有名なモデルの三科雅彦?射殺された?」
「そうだ」
俺と出会った頃にはもう三科雅彦のことが好きだったんだ。
「俺はあいつが死んでからもう誰も好きにならないって誓ったんだ」
そりゃ、そんな過去があったらもう恋愛なんてしたくないって思うかも。
本当に好きだったんだね…彼のこと。
俺はそんな一途な哀沢くんも好き。
「山田がいなくなるかもしれないと思ったら不安で仕方なかった。あいつを失った時の感情と似ている気がした」
そんなこと言って貰えるなんて、生きててよかった。
死ななくてよかった。
「もしまだ山田が俺のことを好きなら、俺のこの気持ちが恋なのかどうか証明するために一緒にいて欲しい」
全然大好きだよ。
これからも好きでいていいなんて、嬉しすぎる。
「俺もちゃんと向き合う。時間かけて、もしこれが恋なんだと気付いたら、その時は山田に告白する。…さすがに身勝手か?」
哀沢くんに好きになってもらえれば、告白してもらって付き合えるってこと!?
そんなの身勝手じゃなくて、むしろ光栄なんだけど…
「じゃあ、お付き合いの仮契約ってことでいい?俺は好きでいていいんだし、哀沢くんが俺を好きになってくれたら、正式に付き合おうね!」
嬉しくて哀沢くんの肩にぎゅうっと腕を回して抱きしめた。
嬉しい、嬉しすぎる。
「もう、めっちゃお金かけて惚れ薬とか開発して好きになってもらう」
「結局金かよ…」
まだ好きでいてもいいなんて。
幸せ。
「じゃあまた、学校でな」
そう言って哀沢くんは病室を出ていった。
俺はしばらくニヤニヤが止まらず、早く退院したくて荷物をまとめ始めた。
17
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

椀貸しの河童
関シラズ
児童書・童話
須川の河童・沼尾丸は近くの村の人々に頼まれては膳椀を貸し出す椀貸しの河童である。ある時、沼尾丸は他所からやって来た旅の女に声をかけられるが……
※
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。

児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
【完結】知られてはいけない
ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
<第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる