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第2章 ライオン☆ハート
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しおりを挟む部屋のすみを陣取ったナオさんには、竜巻の影響がほとんどない。
それに引きかえ、腕をつかまれ、盾にされた美玲ちゃんの顔や手足には、飛んできた瓦礫や割れたガラス片があたって、いくつもの傷ができていた。
それなのに美玲ちゃんは、ナオさんを守るため、絶対にその場から逃げようとしない。
その姿を見て、ぼくの目に涙があふれてきた。
いまにも倒れそうなのに……、逃げ出したいはずなのに……。
そんな美玲ちゃんの顔に、容赦なくペットボトルがぶちあたった。
中の聖水が辺りに飛び散る。
そのとき、ぼくは見た。見逃さなかった!
ナオさんが飛び散る聖水をよけて、しゃがみ込んだことに……!
とっさにぼくは、竜巻の中へ身を投げ込んだ。
ぐるぐると洗濯機のように渦巻く風に乗りながら、舞い散るお札の一枚にかみつく。
そのまま昇天しそうになる気持ちを、ぐっとこらえて、美玲ちゃんのそばに飛ばされるのを待った。
やがて、飛び回るガラス片や瓦礫とともに、美玲ちゃんの近くへ飛んでいく。
あいつは、気付いていない。
背中を向けて迫ってくるぼくの口に、お札がくわえられていることに!
ぼくの体が、美玲ちゃんの顔に激突する、刹那。
ふり向きざまのぼくと、いまにも力つきそうな美玲ちゃんの目が合った。
「……ミッケ」
その瞬間、美玲ちゃんは、すべてを悟ってくれた。
美玲ちゃんが、いきおいよく頭を下げる。
がら空きになったナオさんの顔面に、ぼくはくわえたお札を、バシっと貼付けてやった。
ぎゃぁぁああああああああああああっ!
断末魔のような叫び声を上げながら、ナオさんは崩れ落ちるようにして、その場に倒れ込んた。
ゴウゴウとうなりを上げていた竜巻の風はしだいに弱くなり、煙のような黒い影も、いつのまにかその姿を消している。
ようやく身動きが取れるようになった美玲ちゃんは、気絶して倒れている優斗くんとチャーシューのそばに駆けよった。
木の葉のように舞い降りたぼくも、みんなのもとに駆けよる。
気絶して倒れていたせいか、ふたりとも飛び交う瓦礫に当たることもなかったようで、たいしたケガは負っていなかった。
だけど、ふうっと安堵のため息をついた直後、ぼくの全身の毛は、波打つように逆立ったんだ。背後から漂ってくる、凍てつくような冷気と、重くのしかかるような怖ろしい視線を感じたからだ。
すでに美玲ちゃんは振り返り、左の耳たぶを引っぱって、幽霊と波長を合わせている。
すると、ナオさんが倒れている場所に、同じような背格好の女性が現れた。
うつむいて立ち尽くしているその女性の体は、半透明に透き通っているように見える。
「あなたが、ナオさんの体に憑依していた、幽霊の本性ね?」
美玲ちゃんの問いかけに、女の幽霊は何もこたえない。
「なんで、女の人ばかり襲うの? わたしだけじゃなく、憑依するまえのナオさんに傷を負わせたのも、あなたの仕業なんでしょ?」
女の幽霊が顔をあげた。
長い髪のあいだから見えるその顔は、ひどくただれた傷があり、いたるところに血が滲んでいる。
『……わたしの顔を見て……。
ひどい顔でしょ? この病院の医療ミスで、わたしはこんな顔になってしまったの。
こんな顔じゃ、生きていても辛いだけ……。
だからわたしは、この病院で自ら命を絶ったのよ』
女の幽霊は、ふたたびうつむいて、長い髪に顔をかくした。
床に散乱した瓦礫が、またもカタカタと震え出す。
こんどは竜巻のような風も、黒い影も現れなかったが、床に落ちていたハサミやピンセットなどの医療器具が、音もなく宙に浮いた。
『わたしがこんなひどい目にあっているのに、
きれいな顔で楽しそうに生きている女の子は、どうしても許せないのよ……!』
宙に浮いたハサミやピンセットが、床に落ちているタブレットPCの画面の光に反射して、銀色に光る。
するどくとがった切っ先が、まっすぐに美玲ちゃんに狙いをつけたそのとき、がらりと診察室の引き戸が開いた。
「もうやめて!」
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