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第2章 ライオン☆ハート
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ふたたび、廃病院の階段をあがる。
四人になった美玲ちゃんたちは、前にチャーシュー、うしろに優斗くん、その真ん中を美玲ちゃんと、美玲ちゃんの腕をつかんで離さないナオさん。というフォーメーションで進んでいた。
闇に包まれた階段をなんとかクリアし、四階の廊下へ足を踏み入れる。
ぼくは、そのあとを少し遅れてついていった。
人間より多少は夜目が効くので、暗闇は得意なんだよね。
四階の廊下は、木々に囲まれた一階よりも月明かりが差し込んでいるはずなので、美玲ちゃんたちの歩みも速くなっているかと思いきや、みんなは四階の廊下の入り口で立ち止まっていた。
「この廊下のさきにある診察室が、幽霊が出るという噂の場所や……」
緊張した面持ちで、チャーシューがつぶやく。
「電磁波センサーの数値が、さっきからずっと乱れっぱなしだ。もう近くにいるんだよ……」
ガチガチと歯が当たる音が聞こえそうなほど、優斗くんの声は震えている。
美玲ちゃんはといえば、ナオさんにずっと左腕をつかまれているので、左の耳たぶを引っぱれずにいた。
波長を合わせないと、幽霊の姿が見えないってのに……。
「早く診察室に行きましょう! もう夜が空けちゃう!」
そんな事情を知らないナオさんは、美玲ちゃんの腕をつかんだまま歩き出した。
真っ先に歩き出したナオさんの姿に、驚いた顔を見合わせていたチャーシューと優斗くんも、覚悟を決めて足を踏み出す。
割れた窓の外には、ざわざわと風に騒ぐ、山の木々が広く見渡せる。
その少し上で、流れる雲にときおり姿をかくしつつ浮かぶ月が、四階の廊下を青白い月明かりで照らしていた。一階ほどではないけれど、四階の廊下も、割れた窓ガラスや、はがれ落ちた壁や天井などの瓦礫が、あちこちに散乱している。
そのなかを美玲ちゃんたちは、敵に襲われないよう群れて泳ぐ小魚のごとく一塊になりながら、ゆっくりと進んでいた。
やがて見えてくる、問題の診察室。
開け放たれた引き戸の先に、月明かりは届いていない。
チャーシューが、暗闇に沈んだ診察室にタブレットPCを向ける。赤外線暗視カメラを通すと、机や棚、診察用の簡単なベッドなどが置かれている様子が、緑色のモノクロームな陰影で確認できた。
「なにか……、見えちゃってる……?」
画面を見ないよう、顔を背けながらたずねる優斗くんに、チャーシューがタブレットPCから目を離さずにこたえる。
「幽霊らしき影は、どこにも映ってへんよ。ワイが昼間に来たときと同じ、荒れ果てた室内が見えるだけや……」
タブレットPCをのぞきながら進むチャーシューを先頭に、四人が、ゆっくりと診察室の中へ足を踏み入れる。
そのあとを、ぼくもついて行くと……。
カタカタカタカタ……。
四人になった美玲ちゃんたちは、前にチャーシュー、うしろに優斗くん、その真ん中を美玲ちゃんと、美玲ちゃんの腕をつかんで離さないナオさん。というフォーメーションで進んでいた。
闇に包まれた階段をなんとかクリアし、四階の廊下へ足を踏み入れる。
ぼくは、そのあとを少し遅れてついていった。
人間より多少は夜目が効くので、暗闇は得意なんだよね。
四階の廊下は、木々に囲まれた一階よりも月明かりが差し込んでいるはずなので、美玲ちゃんたちの歩みも速くなっているかと思いきや、みんなは四階の廊下の入り口で立ち止まっていた。
「この廊下のさきにある診察室が、幽霊が出るという噂の場所や……」
緊張した面持ちで、チャーシューがつぶやく。
「電磁波センサーの数値が、さっきからずっと乱れっぱなしだ。もう近くにいるんだよ……」
ガチガチと歯が当たる音が聞こえそうなほど、優斗くんの声は震えている。
美玲ちゃんはといえば、ナオさんにずっと左腕をつかまれているので、左の耳たぶを引っぱれずにいた。
波長を合わせないと、幽霊の姿が見えないってのに……。
「早く診察室に行きましょう! もう夜が空けちゃう!」
そんな事情を知らないナオさんは、美玲ちゃんの腕をつかんだまま歩き出した。
真っ先に歩き出したナオさんの姿に、驚いた顔を見合わせていたチャーシューと優斗くんも、覚悟を決めて足を踏み出す。
割れた窓の外には、ざわざわと風に騒ぐ、山の木々が広く見渡せる。
その少し上で、流れる雲にときおり姿をかくしつつ浮かぶ月が、四階の廊下を青白い月明かりで照らしていた。一階ほどではないけれど、四階の廊下も、割れた窓ガラスや、はがれ落ちた壁や天井などの瓦礫が、あちこちに散乱している。
そのなかを美玲ちゃんたちは、敵に襲われないよう群れて泳ぐ小魚のごとく一塊になりながら、ゆっくりと進んでいた。
やがて見えてくる、問題の診察室。
開け放たれた引き戸の先に、月明かりは届いていない。
チャーシューが、暗闇に沈んだ診察室にタブレットPCを向ける。赤外線暗視カメラを通すと、机や棚、診察用の簡単なベッドなどが置かれている様子が、緑色のモノクロームな陰影で確認できた。
「なにか……、見えちゃってる……?」
画面を見ないよう、顔を背けながらたずねる優斗くんに、チャーシューがタブレットPCから目を離さずにこたえる。
「幽霊らしき影は、どこにも映ってへんよ。ワイが昼間に来たときと同じ、荒れ果てた室内が見えるだけや……」
タブレットPCをのぞきながら進むチャーシューを先頭に、四人が、ゆっくりと診察室の中へ足を踏み入れる。
そのあとを、ぼくもついて行くと……。
カタカタカタカタ……。
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