化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏

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第1章 萌の部屋にいたものは

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 もえちゃんのマンションから出たとき、黒々した雨雲は、すっかり姿を消していた。

 ぼくは黄金こがね色の夕日に染められた空を見上げながら、お気に入りになった美玲みれいちゃんの頭の上で、充実感に浸っていた。


「いやあ、ひと仕事終えたあとっていうのは、とっても気持ちがいいもんだね!」


 対照的に美玲みれいちゃんは、畳んだビニール傘をぶんぶんとふり回しながら、不満げに愚痴をこぼした。


「な~にが、ひと仕事終えたあとよ。あんた、結局なにもしていないじゃない」


「冷めてるなぁ、美玲みれいちゃん。そりゃあ、ぼくは半分くらい気絶……じゃない、自己紹介のタイミングを計りかねて、思うように出て行けなかったけど……」


 まぶしく輝く夕日に目を細めながら、潤んだ瞳でぼくは続ける。


「ぼく、とっても感動しているんだ!」

「……感動? なぁにが?」


 美玲みれいちゃんが片方の眉をつり上げ、頭の上のぼくをいぶかしげに見上げた。

「気付かない? はじめて会ったお化けが、あんなやつだったのは残念だけど、仲が良かった頃の家族の写真が、もえちゃん巣食すくう悪いお化けを撃退したんだよ!
 とってもすばらしい、最高のエンディングじゃあないかっ!」

 感動にうち震えるぼくとは対照的に、美玲みれいちゃんは肩をすくめて、大きなため息をついた。


「おめでたい化け猫ね。そんなお涙ちょうだい丸出しの、安っぽくて、しょっぼい子どもだましのストーリー、感動できるのはおこちゃまの、あんただけよ」


 そのあまりに冷めた態度に、ぼくはすっかりあきれてしまった。
 頭の上から歩道に飛び降り、キッと、美玲みれいちゃんを睨みつける。


美玲みれいちゃん、口悪い! 自分だって、まだ小学五年生のおこちゃまのくせに、感じ悪い! 態度悪い! 性格悪い! 胸くそ悪いぃぃぃっ~」


「いい、ミッケ。よく聞きなさい」


 悪態をつくぼくの鼻先に傘のを突きつけながら、美玲みれいちゃんが続けた。


「まだエンディングじゃないのよ。あいつはまた、もえのところにやってくるんだから」

「えっ! さっきもえちゃんには、徹底的に退治したって言ってたよね?」

「怖がりのもえには、ああでも言って安心させないと……。とにかく、あいつがまた現れるまえに、あいつの本体をどうにかしないとね」

「あのド変態ストーカーお化けの、本体……?」

 呆然とするぼくのひとり言に、ゆっくりとうなづく美玲みれいちゃん。


「もう目星めぼしは付いているんだから、明日、学校の帰りにでも行くわよ。
 あんたもついてきなさい、ミッケ」


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