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第1章 萌の部屋にいたものは
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「じゃあ、しばらく一人で様子を見てみるから、萌は部屋の外で待ってて」
美玲ちゃんはそう言うと、ぼくのおしりをぽんっと蹴って、部屋の中に押し入れた。
続いて美玲ちゃんも部屋に入り、ドアを閉める。
いつもなら、「蹴るなんて、ひどい!」と怒鳴るところだけど、ぼくはお化けの気配に集中することでいっぱいだったから、怒るのも忘れていた。
「ねえ、お化けいる?」
しんと静まり返った室内に、しだいに強く降り始めた雨の音が響いている。
「う~ん。なにか感じるんだけど、やっぱりちょっと薄いのよね」
「……薄い?」
「うん。もしかしたら、ポルターガイストかも」
「ポルターガイスト? それ、どんなお化け?」
「お化けじゃないよ。わたしぐらいの子どもがいる家で、よく起こる現象よ。
萌、両親が離婚したばかりで、ママも仕事でよく家を空けて、いつも一人ぼっちでしょ? 萌自身も気付かないうちに、不安や精神的なストレスが溜っているのかもね。
そのうっせきしたストレスのパワーが、自分でも気付かないうちに発散されて、部屋の物を動かしたり、物音を立てたりするの」
とたんにぼくの緊張の糸は、ぷつりと切れてしまった。はじめてお化けに出会えると期待していたのに、その正体は、萌ちゃん自身のストレスとはね。
「なあんだ。じゃあ、解決方法は簡単だね。萌ちゃんに、『まあまあ落ち着いて、ストレス発散にカラオケでも一緒にどぉ?』って誘えばいいんだから」
ぼくの提案に、美玲ちゃんはため息まじりで肩をすくめた。
「ばかね、心の問題ってのは、そんなに簡単じゃないの!
だいたいあんた、お化けじゃないとわかったとたん、ずいぶん余裕じゃない?
さっきドアのすきまから部屋の中をのぞいたとき、体中の毛が逆立っていたの知ってるんだからね! ほんとはちょっと、ビビってたんじゃないの?」
美玲ちゃんのするどいツッコミに、ぼくは自分でも認めたくなかった本心を見抜かれたようで、すっかり動揺してしまった。
たしかに、仲間に会えるという期待より、ちょっと恐怖心の方が、上回っていたかもしれない。
「ばばば、ばか言ってらあ! そ、そんなわけないよう!」
「あら、図星~。お化けのくせにお化けが怖いなんて、超ウケるんですけど~」
「その、ひとを小バカにしたようなしゃべりかた、やめろ~!」
と、美玲ちゃんに飛びかかろうとしたとたん、美玲ちゃんは一点を見つめたまま固まってしまった。
ふだん見せたことないような真剣なまなざしで、学習机を見つめている。
「なにそれ。わかりやすい演技しちゃってさぁ。ぼく、だまされないからね!」
だけど美玲ちゃんは、何もこたえずに、おもむろに左の耳たぶを指でつまんだ。
ゆっくりと引っぱったり、戻したりしている。
「ねぇ、なにしてるの?」
「黙って! いま波長を合わせているんだから!」
いつのまにか部屋の空気が、ぴんと張りつめていた。
バチバチと激しく窓を打ちつける雨音だけが、室内に響いている。
ぼくはすがるような気持ちで、美玲ちゃんを見上げた。
美玲ちゃんは、ぼくと視線を合わすことなく、ずっと一点を見つめたままつぶやいた。
「やっぱりこの部屋、なにかいる!」
美玲ちゃんはそう言うと、ぼくのおしりをぽんっと蹴って、部屋の中に押し入れた。
続いて美玲ちゃんも部屋に入り、ドアを閉める。
いつもなら、「蹴るなんて、ひどい!」と怒鳴るところだけど、ぼくはお化けの気配に集中することでいっぱいだったから、怒るのも忘れていた。
「ねえ、お化けいる?」
しんと静まり返った室内に、しだいに強く降り始めた雨の音が響いている。
「う~ん。なにか感じるんだけど、やっぱりちょっと薄いのよね」
「……薄い?」
「うん。もしかしたら、ポルターガイストかも」
「ポルターガイスト? それ、どんなお化け?」
「お化けじゃないよ。わたしぐらいの子どもがいる家で、よく起こる現象よ。
萌、両親が離婚したばかりで、ママも仕事でよく家を空けて、いつも一人ぼっちでしょ? 萌自身も気付かないうちに、不安や精神的なストレスが溜っているのかもね。
そのうっせきしたストレスのパワーが、自分でも気付かないうちに発散されて、部屋の物を動かしたり、物音を立てたりするの」
とたんにぼくの緊張の糸は、ぷつりと切れてしまった。はじめてお化けに出会えると期待していたのに、その正体は、萌ちゃん自身のストレスとはね。
「なあんだ。じゃあ、解決方法は簡単だね。萌ちゃんに、『まあまあ落ち着いて、ストレス発散にカラオケでも一緒にどぉ?』って誘えばいいんだから」
ぼくの提案に、美玲ちゃんはため息まじりで肩をすくめた。
「ばかね、心の問題ってのは、そんなに簡単じゃないの!
だいたいあんた、お化けじゃないとわかったとたん、ずいぶん余裕じゃない?
さっきドアのすきまから部屋の中をのぞいたとき、体中の毛が逆立っていたの知ってるんだからね! ほんとはちょっと、ビビってたんじゃないの?」
美玲ちゃんのするどいツッコミに、ぼくは自分でも認めたくなかった本心を見抜かれたようで、すっかり動揺してしまった。
たしかに、仲間に会えるという期待より、ちょっと恐怖心の方が、上回っていたかもしれない。
「ばばば、ばか言ってらあ! そ、そんなわけないよう!」
「あら、図星~。お化けのくせにお化けが怖いなんて、超ウケるんですけど~」
「その、ひとを小バカにしたようなしゃべりかた、やめろ~!」
と、美玲ちゃんに飛びかかろうとしたとたん、美玲ちゃんは一点を見つめたまま固まってしまった。
ふだん見せたことないような真剣なまなざしで、学習机を見つめている。
「なにそれ。わかりやすい演技しちゃってさぁ。ぼく、だまされないからね!」
だけど美玲ちゃんは、何もこたえずに、おもむろに左の耳たぶを指でつまんだ。
ゆっくりと引っぱったり、戻したりしている。
「ねぇ、なにしてるの?」
「黙って! いま波長を合わせているんだから!」
いつのまにか部屋の空気が、ぴんと張りつめていた。
バチバチと激しく窓を打ちつける雨音だけが、室内に響いている。
ぼくはすがるような気持ちで、美玲ちゃんを見上げた。
美玲ちゃんは、ぼくと視線を合わすことなく、ずっと一点を見つめたままつぶやいた。
「やっぱりこの部屋、なにかいる!」
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