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第2章 ライオン☆ハート
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翌朝、美玲ちゃんは嫌がるぼくを無理矢理頭に乗っけて、美砂小学校へ向かった。
登校中のたくさんの子どもたちのなかを歩いても、美玲ちゃんの頭上にいる、ぼくの姿に気が付く子はひとりもいない。
それに引きかえ美玲ちゃんは、昇降口で靴を履き替えるときには、もう数人の男子に囲まれ、雑誌を突きつけられていた。
ぼくだって生きている頃は、メス猫にモテまくっていたし、人間にだって、そりゃあ、かわいがられまくっていたものさ。……覚えちゃいないけどね。
足もとでもみくちゃにされている美玲ちゃんに嫉妬しながらも、男子たちが美玲ちゃんの目の前に突き出した、オカルト雑誌の内容を確認する。
見れば誌面には、学校の裏山にある廃病院で撮影された、心霊写真が掲載されていた。
「たまに見えるって程度で、お化けとか幽霊のことなんか、よくわからないんだってば!」
美玲ちゃんはそう怒鳴ると、男子たちをかき分け、とつぜん廊下を走り出した。
そのせいで、美玲ちゃんの頭の上から転げ落ちたぼくは、あとを追いかける男子たちに体じゅうを踏まれまくったけど、誰一人あやまる子はいない。
姿が見えないから当然だけど、文字通り『踏んだり蹴ったり』だ。
教室に入った美玲ちゃんは、またもや自分の席に座ったとたん、たくさんの人だかりに取り囲まれて、姿が見えなくなってしまった。
「毎日こんな調子じゃ、美玲ちゃんが疲れて帰ってくるのも無理ないね」
ぼくはひとりつぶやきながら、教室のうしろにある掃除用ロッカーの上に飛び乗った。ここならだれにも踏まれる心配はないし、教室のなかを隅々まで見渡せる。
「あ、来た来た。あの子だね」
教えられなくてもわかったよ。
サラサラの髪に整った顔立ち。清潔感ただよう、まるで女の子みたいな男の子。教室のうしろの引き戸から入ってきた彼が、まちがいなく美玲ちゃんの推しメン、優斗くんだ。
優斗くんは、美玲ちゃんを中心とする黒山の人だかりを遠巻きに眺めながら、教室の一番うしろにある自分の席に座った。
間髪入れずに、萌ちゃんが駆けよってくる。
「なるほどね。恋敵の美玲ちゃんをクラスの人気者にしたのは、そのあいだに優斗くんを独り占めにするためだったのか……。やるな、萌ちゃん」
ひとり感心していると、どこからかドスドスと地響きが伝わってきた。
美玲ちゃんのまわりの人だかりも、ざわざわと騒ぎ出す。
と、とつぜん教室の前の引き戸がいきおいよく開いて、相撲取りのような巨体の男子が飛び込んできた。
「アカン! これはアカン、アカンでぇ! こんなもん雑誌に載せたら、絶対にアカン! これはホンマもんやでえ!」
油の浮いたメガネに、坊主頭から湯気がたつほどに流れる汗。
一目見てわかった。彼がチャーシューだ。
人だかりのなかの女子が、クモの子を散らすように美玲ちゃんの前から逃げ出していく。
チャーシューは手に持った雑誌に視線を落としたまま、残った男子ばかりの人だかりをボーリングのピンのごとくなぎ倒しながら、美玲ちゃんの目の前を陣取った。
「この廃病院はアカン! ワイらのあいだでは有名な心霊スポットや! 素人さんが気軽に近ようたらアカン場所なんや! せやろがい?」
怒鳴りながら訴えかけてくるチャーシューを、キッと睨み返して、美玲ちゃんはするどく言い返した。
「アイドントスピークカンサイベン!(わたしは関西弁が話せません)」
ウケようと思って言ったんじゃないだろうけど、しんと静まり返った教室のなかで、美玲ちゃんの顔が真っ赤に染まっていくさまは、とても面白かった。
登校中のたくさんの子どもたちのなかを歩いても、美玲ちゃんの頭上にいる、ぼくの姿に気が付く子はひとりもいない。
それに引きかえ美玲ちゃんは、昇降口で靴を履き替えるときには、もう数人の男子に囲まれ、雑誌を突きつけられていた。
ぼくだって生きている頃は、メス猫にモテまくっていたし、人間にだって、そりゃあ、かわいがられまくっていたものさ。……覚えちゃいないけどね。
足もとでもみくちゃにされている美玲ちゃんに嫉妬しながらも、男子たちが美玲ちゃんの目の前に突き出した、オカルト雑誌の内容を確認する。
見れば誌面には、学校の裏山にある廃病院で撮影された、心霊写真が掲載されていた。
「たまに見えるって程度で、お化けとか幽霊のことなんか、よくわからないんだってば!」
美玲ちゃんはそう怒鳴ると、男子たちをかき分け、とつぜん廊下を走り出した。
そのせいで、美玲ちゃんの頭の上から転げ落ちたぼくは、あとを追いかける男子たちに体じゅうを踏まれまくったけど、誰一人あやまる子はいない。
姿が見えないから当然だけど、文字通り『踏んだり蹴ったり』だ。
教室に入った美玲ちゃんは、またもや自分の席に座ったとたん、たくさんの人だかりに取り囲まれて、姿が見えなくなってしまった。
「毎日こんな調子じゃ、美玲ちゃんが疲れて帰ってくるのも無理ないね」
ぼくはひとりつぶやきながら、教室のうしろにある掃除用ロッカーの上に飛び乗った。ここならだれにも踏まれる心配はないし、教室のなかを隅々まで見渡せる。
「あ、来た来た。あの子だね」
教えられなくてもわかったよ。
サラサラの髪に整った顔立ち。清潔感ただよう、まるで女の子みたいな男の子。教室のうしろの引き戸から入ってきた彼が、まちがいなく美玲ちゃんの推しメン、優斗くんだ。
優斗くんは、美玲ちゃんを中心とする黒山の人だかりを遠巻きに眺めながら、教室の一番うしろにある自分の席に座った。
間髪入れずに、萌ちゃんが駆けよってくる。
「なるほどね。恋敵の美玲ちゃんをクラスの人気者にしたのは、そのあいだに優斗くんを独り占めにするためだったのか……。やるな、萌ちゃん」
ひとり感心していると、どこからかドスドスと地響きが伝わってきた。
美玲ちゃんのまわりの人だかりも、ざわざわと騒ぎ出す。
と、とつぜん教室の前の引き戸がいきおいよく開いて、相撲取りのような巨体の男子が飛び込んできた。
「アカン! これはアカン、アカンでぇ! こんなもん雑誌に載せたら、絶対にアカン! これはホンマもんやでえ!」
油の浮いたメガネに、坊主頭から湯気がたつほどに流れる汗。
一目見てわかった。彼がチャーシューだ。
人だかりのなかの女子が、クモの子を散らすように美玲ちゃんの前から逃げ出していく。
チャーシューは手に持った雑誌に視線を落としたまま、残った男子ばかりの人だかりをボーリングのピンのごとくなぎ倒しながら、美玲ちゃんの目の前を陣取った。
「この廃病院はアカン! ワイらのあいだでは有名な心霊スポットや! 素人さんが気軽に近ようたらアカン場所なんや! せやろがい?」
怒鳴りながら訴えかけてくるチャーシューを、キッと睨み返して、美玲ちゃんはするどく言い返した。
「アイドントスピークカンサイベン!(わたしは関西弁が話せません)」
ウケようと思って言ったんじゃないだろうけど、しんと静まり返った教室のなかで、美玲ちゃんの顔が真っ赤に染まっていくさまは、とても面白かった。
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