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第1章 萌の部屋にいたものは

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「ちがう! ポルターガイストなんかじゃない! やっぱりこの部屋、なにかいる!」

 窓の外はどす黒い雨雲が広がり、まだ昼過ぎだというのに、室内はすっかり暗くなっていた。遠くの空で稲光いなびかりが光っている。


「ぼぼぼ、ぼくには何も、みみみ、見えないですけど?」


「よく目をらして。学習机の本棚よ……」


 美玲みれいちゃんに言われた通り、ぼくは恐る恐る学習机に目を向けた。
 言われてみれば、学習机の本棚の辺りで、何かがうごめいた気がする。

 さらに目をらしたとき、ぼくはついに見つけてしまった。
 並んだ本と本のすきまからにらみつけている、ぎょろりと血走った目玉を……!

 ぼくの頭の中は真っ白になってしまって、そこから先はぼんやりとしか覚えていないけど、うっすらとした記憶の中で、美玲みれいちゃんはこう怒鳴っていた。


「年頃の女の子の部屋をのぞくなんて、なんて変態オバケなの! そんなところにかくれていないで、出てらっしゃいっ!」


 美玲みれいちゃんが怒鳴ると、学習机とうしろの壁のわずかなすきまから、ずるりずるりと黒く大きな影が現れ、ちゅうに浮かび上がった。

 それは、異様いようなほどに大きな、人間の頭――。

 激しくふり乱したような髪の毛に、お肌の手入れがされているとは思えない、脂ぎった男の顔。
 天井の半分を埋めつくさんばかりの、巨大な中年男性の頭の下には、不釣ふつり合いなほど小さな体がぶら下がっていて、ぎょろりとむき出した大きなふたつの目玉は、左右ばらばらに、せわしなく辺りを見回していた。


だんジテ……だんジテ変態ナノデハナイ……。心配ナノダ……。
 オレノカワイイもえニ、変ナ虫ガヨッテコナイヨウ、見守ッテイルダケダ……』


 目玉お化けが、地響きのような低い声でそうつぶやいたとたん、部屋中にタバコの煙の匂いが立ちこめた。

 目まいがしそうな匂いにむせつつも、美玲みれいちゃんが怒鳴る。

「嘘つかないで! あんたはもえに自分を見てもらいたいだけでしょ!
 だから物音を立てたり、家の物を動かしたりして、もえにふり向いてもらおうと必死なんじゃない!
 そんなことしたって、もえに嫌われるだけよっ!」


『ウ……ウウ…ウ……』

 目玉お化けの脂ぎった顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
 次の瞬間、部屋の窓ガラスがびりびりと震えるほどの大きな声で叫んだ。


『……ウ・ル・サ・アァァァァァァイッ!!!』


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