7 / 61
第1章 萌の部屋にいたものは
6
しおりを挟む
「ちがう! ポルターガイストなんかじゃない! やっぱりこの部屋、なにかいる!」
窓の外はどす黒い雨雲が広がり、まだ昼過ぎだというのに、室内はすっかり暗くなっていた。遠くの空で稲光が光っている。
「ぼぼぼ、ぼくには何も、みみみ、見えないですけど?」
「よく目を凝らして。学習机の本棚よ……」
美玲ちゃんに言われた通り、ぼくは恐る恐る学習机に目を向けた。
言われてみれば、学習机の本棚の辺りで、何かがうごめいた気がする。
さらに目を凝らしたとき、ぼくはついに見つけてしまった。
並んだ本と本のすきまから睨みつけている、ぎょろりと血走った目玉を……!
ぼくの頭の中は真っ白になってしまって、そこから先はぼんやりとしか覚えていないけど、うっすらとした記憶の中で、美玲ちゃんはこう怒鳴っていた。
「年頃の女の子の部屋をのぞくなんて、なんて変態オバケなの! そんなところにかくれていないで、出てらっしゃいっ!」
美玲ちゃんが怒鳴ると、学習机とうしろの壁のわずかなすきまから、ずるりずるりと黒く大きな影が現れ、宙に浮かび上がった。
それは、異様なほどに大きな、人間の頭――。
激しくふり乱したような髪の毛に、お肌の手入れがされているとは思えない、脂ぎった男の顔。
天井の半分を埋めつくさんばかりの、巨大な中年男性の頭の下には、不釣り合いなほど小さな体がぶら下がっていて、ぎょろりとむき出した大きなふたつの目玉は、左右ばらばらに、せわしなく辺りを見回していた。
『断ジテ……断ジテ変態ナノデハナイ……。心配ナノダ……。
オレノカワイイ萌ニ、変ナ虫ガヨッテコナイヨウ、見守ッテイルダケダ……』
目玉お化けが、地響きのような低い声でそう呟いたとたん、部屋中にタバコの煙の匂いが立ちこめた。
目まいがしそうな匂いにむせつつも、美玲ちゃんが怒鳴る。
「嘘つかないで! あんたは萌に自分を見てもらいたいだけでしょ!
だから物音を立てたり、家の物を動かしたりして、萌にふり向いてもらおうと必死なんじゃない!
そんなことしたって、萌に嫌われるだけよっ!」
『ウ……ウウ…ウ……』
目玉お化けの脂ぎった顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
次の瞬間、部屋の窓ガラスがびりびりと震えるほどの大きな声で叫んだ。
『……ウ・ル・サ・アァァァァァァイッ!!!』
窓の外はどす黒い雨雲が広がり、まだ昼過ぎだというのに、室内はすっかり暗くなっていた。遠くの空で稲光が光っている。
「ぼぼぼ、ぼくには何も、みみみ、見えないですけど?」
「よく目を凝らして。学習机の本棚よ……」
美玲ちゃんに言われた通り、ぼくは恐る恐る学習机に目を向けた。
言われてみれば、学習机の本棚の辺りで、何かがうごめいた気がする。
さらに目を凝らしたとき、ぼくはついに見つけてしまった。
並んだ本と本のすきまから睨みつけている、ぎょろりと血走った目玉を……!
ぼくの頭の中は真っ白になってしまって、そこから先はぼんやりとしか覚えていないけど、うっすらとした記憶の中で、美玲ちゃんはこう怒鳴っていた。
「年頃の女の子の部屋をのぞくなんて、なんて変態オバケなの! そんなところにかくれていないで、出てらっしゃいっ!」
美玲ちゃんが怒鳴ると、学習机とうしろの壁のわずかなすきまから、ずるりずるりと黒く大きな影が現れ、宙に浮かび上がった。
それは、異様なほどに大きな、人間の頭――。
激しくふり乱したような髪の毛に、お肌の手入れがされているとは思えない、脂ぎった男の顔。
天井の半分を埋めつくさんばかりの、巨大な中年男性の頭の下には、不釣り合いなほど小さな体がぶら下がっていて、ぎょろりとむき出した大きなふたつの目玉は、左右ばらばらに、せわしなく辺りを見回していた。
『断ジテ……断ジテ変態ナノデハナイ……。心配ナノダ……。
オレノカワイイ萌ニ、変ナ虫ガヨッテコナイヨウ、見守ッテイルダケダ……』
目玉お化けが、地響きのような低い声でそう呟いたとたん、部屋中にタバコの煙の匂いが立ちこめた。
目まいがしそうな匂いにむせつつも、美玲ちゃんが怒鳴る。
「嘘つかないで! あんたは萌に自分を見てもらいたいだけでしょ!
だから物音を立てたり、家の物を動かしたりして、萌にふり向いてもらおうと必死なんじゃない!
そんなことしたって、萌に嫌われるだけよっ!」
『ウ……ウウ…ウ……』
目玉お化けの脂ぎった顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
次の瞬間、部屋の窓ガラスがびりびりと震えるほどの大きな声で叫んだ。
『……ウ・ル・サ・アァァァァァァイッ!!!』
12
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【シリーズ1完】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~シリーズ2
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる