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終章:進むべき道
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トモルはごしごしと涙を拭くと、気を取り直すように大きく息を吸ってから話し始めた。
「この前、勇気を出して教室に行ったんだ。そしたらタカシがぼくのところに来て、『数少ないお前の友だちが、みんないなくなっちゃったな。もう誰もお前のことなんて助けてくれないぜ!』って言って、思いっきりぼくのことを突き飛ばしたんだ。尻餅をついたぼくはクラスじゅうから刺すような視線を感じて、また保健室へ逃げ込みたくなったよ……」
「ちょっとずつ慣れていけばいいんだ。焦ることないよ……。というか、以前ぼくは『きみから歩み寄ってみろ』なんて無責任なことを言ってしまったけど、あれはぼくの考え足らずだった。きみが折れる道理なんて、何もなかったんだ……」
メグルの言葉に、トモルは大きく首を横にふった。
「教室から逃げ出そうとしたとき、メグルくんやサヤカちゃんのことを思い出したんだ。そしたらどうしても言い返したくなって、気が付いたら叫んでたんだよ。
『ぼくの友だちは少なかったけれど、誰もが親友なんだ! ぼくが悩んでるときは一緒に悩んでくれるし、間違ったことをすれば命がけで諭してくれる。だからぼくも友だちが困ってるときは、命がけで助ける覚悟がある! お前にそんな友だちがいるか!』ってさ……。
タカシはぽかんとしているし、クラスメイトの視線も突き刺さるように感じたよ。ぼくはどうしたらいいかわからなくなって『きみは本当の友だちがいないから、ぼくが親友になってやる!』って言って、手を突き出したんだ。それからメグルくんに教えてもらった通り、一生懸命、笑ってみたんだよ。すごく引きつっちゃったけど……。そしたら……」
「そしたら……?」
メグルが身を乗り出す。
「そしたら……、タカシが突然笑い出したんだ。何も言わずに、ぼくの肩をばんばん叩きながら大笑いしてるんだ。訳がわからなくて、ぼくはまわりのみんなを見まわした。そしたらみんなも笑顔に変わってるんだ……。どうしちゃったのかな? まるで、がらりと世界が変わっちゃったみたいなんだよ」
真剣な顔で聞いていたメグルまでが、突然、大声で笑い出した。
「教えてよ! どうしてメグルくんまで笑っているのさ」
「だって嬉しいんだもの!」メグルは涙を流しながら大笑いした。
「世界が変わったんじゃないよトモル、きみ自身が変わったんだ! きみの勇気と笑顔に、みんなが応えたんだ!」
そう言いながらも、メグルは、はっとした。
「そうか……。トモルが発した光が、いままで暗い影ばかり見せていたクラスメイトを明るく照らしたってことは……。やっぱり世界が変わったんだ! トモル、きみが世界を変えたんだよ! たったひとりのきみの笑顔が、みんなの悪意を吹き飛ばしたんだ!」
メグルはいきなり、トモルの頭をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうトモル。きみはぼくにも光をくれたよ。ぼくの進むべき道を照らしてくれた。天魔が悪意をふりまき世界を闇で包むなら、ぼくは光を発して世界を愛で満たしてやる!」
トモルはメグルの言っていることがよくわからなかった。
しかしそんなことよりも、メグルに抱かれていると、とても懐かしい気持ちがして心地良かった。
まるでお父さんに抱かれているように、心がとても温かくなるのだ。
「さよならトモル。お母さんを頼んだよ。天国のお父さんも、きっときみたちを見守っているよ」
トモルと清美は、もう悪意に惑わされることはないだろう。たとえ心が折られそうな激しい嵐にさらされても、お互いを支え合う添え木となって、乗り越えるだろう……。
メグルは立ち上がると、寂しそうに見つめる息子と握手した。
そして、踵を返して土手を上がる。
その姿が土手のかげに消えかけたとき、トモルが声を張り上げた。
「もう誰も恨んだりしないよ! これからも、ぼくの笑顔でみんなを照らすんだ! 学校も、この街も、世界中を笑顔で照らすんだ! そうだろメグル!」
メグルはふり返らずに、大きく手をふった。
ふたりのあいだを、空を見上げながら父と子が走っていく。
突き抜けるような青空に、黄色い模型飛行機が飛んでいた。
「この前、勇気を出して教室に行ったんだ。そしたらタカシがぼくのところに来て、『数少ないお前の友だちが、みんないなくなっちゃったな。もう誰もお前のことなんて助けてくれないぜ!』って言って、思いっきりぼくのことを突き飛ばしたんだ。尻餅をついたぼくはクラスじゅうから刺すような視線を感じて、また保健室へ逃げ込みたくなったよ……」
「ちょっとずつ慣れていけばいいんだ。焦ることないよ……。というか、以前ぼくは『きみから歩み寄ってみろ』なんて無責任なことを言ってしまったけど、あれはぼくの考え足らずだった。きみが折れる道理なんて、何もなかったんだ……」
メグルの言葉に、トモルは大きく首を横にふった。
「教室から逃げ出そうとしたとき、メグルくんやサヤカちゃんのことを思い出したんだ。そしたらどうしても言い返したくなって、気が付いたら叫んでたんだよ。
『ぼくの友だちは少なかったけれど、誰もが親友なんだ! ぼくが悩んでるときは一緒に悩んでくれるし、間違ったことをすれば命がけで諭してくれる。だからぼくも友だちが困ってるときは、命がけで助ける覚悟がある! お前にそんな友だちがいるか!』ってさ……。
タカシはぽかんとしているし、クラスメイトの視線も突き刺さるように感じたよ。ぼくはどうしたらいいかわからなくなって『きみは本当の友だちがいないから、ぼくが親友になってやる!』って言って、手を突き出したんだ。それからメグルくんに教えてもらった通り、一生懸命、笑ってみたんだよ。すごく引きつっちゃったけど……。そしたら……」
「そしたら……?」
メグルが身を乗り出す。
「そしたら……、タカシが突然笑い出したんだ。何も言わずに、ぼくの肩をばんばん叩きながら大笑いしてるんだ。訳がわからなくて、ぼくはまわりのみんなを見まわした。そしたらみんなも笑顔に変わってるんだ……。どうしちゃったのかな? まるで、がらりと世界が変わっちゃったみたいなんだよ」
真剣な顔で聞いていたメグルまでが、突然、大声で笑い出した。
「教えてよ! どうしてメグルくんまで笑っているのさ」
「だって嬉しいんだもの!」メグルは涙を流しながら大笑いした。
「世界が変わったんじゃないよトモル、きみ自身が変わったんだ! きみの勇気と笑顔に、みんなが応えたんだ!」
そう言いながらも、メグルは、はっとした。
「そうか……。トモルが発した光が、いままで暗い影ばかり見せていたクラスメイトを明るく照らしたってことは……。やっぱり世界が変わったんだ! トモル、きみが世界を変えたんだよ! たったひとりのきみの笑顔が、みんなの悪意を吹き飛ばしたんだ!」
メグルはいきなり、トモルの頭をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうトモル。きみはぼくにも光をくれたよ。ぼくの進むべき道を照らしてくれた。天魔が悪意をふりまき世界を闇で包むなら、ぼくは光を発して世界を愛で満たしてやる!」
トモルはメグルの言っていることがよくわからなかった。
しかしそんなことよりも、メグルに抱かれていると、とても懐かしい気持ちがして心地良かった。
まるでお父さんに抱かれているように、心がとても温かくなるのだ。
「さよならトモル。お母さんを頼んだよ。天国のお父さんも、きっときみたちを見守っているよ」
トモルと清美は、もう悪意に惑わされることはないだろう。たとえ心が折られそうな激しい嵐にさらされても、お互いを支え合う添え木となって、乗り越えるだろう……。
メグルは立ち上がると、寂しそうに見つめる息子と握手した。
そして、踵を返して土手を上がる。
その姿が土手のかげに消えかけたとき、トモルが声を張り上げた。
「もう誰も恨んだりしないよ! これからも、ぼくの笑顔でみんなを照らすんだ! 学校も、この街も、世界中を笑顔で照らすんだ! そうだろメグル!」
メグルはふり返らずに、大きく手をふった。
ふたりのあいだを、空を見上げながら父と子が走っていく。
突き抜けるような青空に、黄色い模型飛行機が飛んでいた。
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