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第14章 導くもの
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しおりを挟む「ごらん。サヤカがまた生まれる」
一匹の蛆が、また泥の中から顔を出した。
うねうねともがきながら泥から抜け出したサヤカの体は、みるみるうちに親指ほどの大きさにまで成長した。
できたばかりの小さな目玉で、己に賦された新しい世界、地獄界の惨憺たる有様をじっと見つめている。
(十界の最下層であるこの地獄界で、サヤカは何を見て、何を思うのだろう……)
メグルは再び消え入りそうになる意識をぐっと堪えて、サヤカを見守っていた。
すると、ひとりの赤ん坊が目敏くサヤカを見つけ出した。成長すればするほど、この沼では目に付きやすく危険が増すのだ。
赤ん坊は両手で泥を派手に叩きながら、地響きを立ててサヤカのもとへやって来る。
「やめろ! サヤカに近づくなっ!」
思わず叫ぶメグル。
その声が地獄界の住人に聞こえるはずもなかったが、なぜか赤ん坊は足がもつれて前のめりに転び、巨大な顔を泥に沈めた。
赤ん坊から逃れることができたサヤカの体はさらに大きくなり、徐々に手足のようなものが生えてきた。
しかし安堵するのも束の間、生えたばかりの手足で、よろめきながら立ち上がろうとしたとき、転んでいた赤ん坊が再びやって来て、自分の体の半分にも満たないサヤカの横腹に頭突きした。
サヤカは泥の沼を転がり、そのまま動かなくなってしまった。
(がんばれサヤカ、諦めるな……!)
メグルの悲痛な願いが届いたのか、サヤカは小さな呻き声を漏らしながらも、泥だらけの顔を上げた。その体は、もう他の赤ん坊たちと変わらないまでに成長している。
サヤカは震える足で立ち上がると、足もとでうごめく蛆には目もくれず、蛆を潰して這いまわる仲間のもとへ向かった。そしてひとりの赤ん坊の腕をつかみ、ずるずるとその体を引っぱり岸へと向かう。
サヤカの思いがけぬ行動に、困惑しながら見つめるメグル。
遊びを邪魔された赤ん坊は手足をばたつかせて暴れだすが、それでもサヤカはその手を離さなかった。
他の赤ん坊たちが異変に気付いて、サヤカを取り囲む。
殴られ、蹴られ、血を流しながらも、サヤカは赤ん坊の腕を決して離さず、岸に向かって泥の沼を這い続けた。
「何してるんだサヤカ! 手を離せ! 構わずひとりで岸に上がるんだ!」
メグルの必死の願いも叫びも、もう届くことはなかった。
サヤカは最後まで手を離さず、岸を目前に精根尽き果て、泥に倒れた。
赤ん坊たちは、なおも執拗にサヤカを蹴り続け、その体は、ついに泥の中へと消えた。
「ああ、サヤカ……。あと少しで岸に上がれたのに、なんで……」
……わからぬか。
煉獄長は消え入りそうなメグルの声を聞きながら、サヤカの想いを感じていた。
彼女はお前の愛情に応えたのだ。魂は愛情をもらった者に似て育つ。サヤカの行動はメグルよ、お前の行動そのものなのだ……。
そのとき――。
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