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第14章 導くもの

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 「お前はいま『地獄界』におる」


 とたんにメグルは、自分が地獄界にいる怖ろしさに戦慄せんりつした。小刻みに震える肩を両手で抱こうとしたき、自分の体が無いことに気付いた。
 メグルは、意識だけの存在になっていた。

 その意識に煉獄れんごく長が語りかける。

 「あの赤黒い泥の沼は『地獄界』の罰のひとつ……。ぽつぽつと泡のようにわいているのが見えるか? あれはうじじゃよ。あれが、この世界の住人じゃ」

 メグルの意識が眼下に広がる泥の沼に近づいていく。うごめくうじの一匹一匹が見えるほどに近づいたとき、煉獄れんごく長の声が再び聞こえた。

 「よく見ておれ。もうすぐ生まれる」

 泥の中から、白いうじが体をうねらせながら顔を出した。

 「見えるか? これがサヤカじゃ」

 メグルは心臓を潰されたようなショックを受けた。
 意識が揺らぎ、散っていく。

 地獄界の焼けるような風に吹き飛ばされそうになったとき、煉獄れんごく長が静かな声で叱った。

 「こらえろメグル。サヤカを真に想うなら、どんなにつらかろうが、お前自身が見守らねばならぬ」

 メグルは強く意識を持った。
 かすみのように消えかかっていた意識が、またひとつにまとまるのを感じた。
 そのとき、メグルの意識の背後から巨大な手が現れ、ずしりとサヤカを押し潰していった。


 「ああ、サヤカ……」

 赤黒い泥の沼が、サヤカの血でさらに赤く染まる。
 巨大な手の持ち主は人間の赤ん坊のような姿をしていた。面白そうにうじを潰し、その血で赤黒く染まった沼をい回っている。
 沼には他にも沢山の赤ん坊たちがいて、みなうじを潰して遊んでいた。

 「あの赤ん坊は、このうじから成長したのだ。先に生まれた者は、足もとから生まれでる我が兄弟たちを、たわむれに潰し、踏みつけて遊んでいるのじゃ。
 彼らに潰されずに運良く育つ者は、ほんのひと握り。そのひと握りの赤ん坊たちが、またうじたちを踏みつけて遊ぶ。ここではそれが永遠に繰り返され、大抵の者は何千、何万と、この沼で転生てんせいを繰り返すことになるじゃろう……」

 また一匹、うじが顔を出したとたんに踏みつけられて死んだ。

 「幾度いくども踏みつけられ、幾度いくどと殺されようとも、あきらめずに生まれでんとする者だけが、この沼からい出ることができる。あきらめれば、永遠に沼の泥となるだけじゃ」

 あわれにも生まれてすぐに命を奪われていくうじたちを、メグルはただ呆然ぼうぜんと見つめていた。

 (幾多いくたもあろう地獄界の罰のなか、この沼から生を受ける者たちはみな、身内との因縁いんねんで命を絶った者たちなのだろうか……)


 「ごらん。サヤカがまた生まれる」

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