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第14章 導くもの

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「……あの親子。サヤカと母親は同じ試練を持っておる」

 「……!」

 思いがけない言葉に、メグルの涙が止まった。

 「あの母親も幼い頃に親からの虐待で苦しんでおった……。その娘であるサヤカもまた、同じごうを背負っておるのだ。我が子を愛せぬという因縁いんねんのもとにな……」

 「そんな……馬鹿な……」

 「親子とはおのが分身、鏡に映る我が姿。あの母親は知らずのうちに、自らの心にある暗い影を、説明のしようもない自分自身への漠然ばくぜんとした憎しみを、我が子に映し見ておった。
 その憎しみの種が、幼いころの虐待によるものだと知ってか知らずか、我が子を傷つけることで自分の心を傷つけ、すさんでおったのだ。そしてそれは、自らの手首を切るサヤカもまたしかり……。
 サヤカに与えられた最後の試練とは、自分を愛することじゃよメグル。それが、やがて生まれくる我が子を愛することにつながり、あの親子に絡みついた悪因縁あくいんねんの鎖を解くことになるのじゃ」

 メグルは言葉も出ずに、煉獄れんごく長を見つめていた。


 「愛情を受けずに育ったものには、並大抵なみたいていで乗り越えられる試練ではない。サヤカには愛情が必要だった。その愛情とは……、あるいは、母親の愛とは限らぬやもしれぬ……」

 「……因果応報いんがおうほうだと言うのですか?」

 独り言のようにつぶやいたメグルの言葉に、煉獄れんごく長が眉をひそめた。

 「……なんじゃと?」

 「清美の過去の不徳ふとくが、自らの試練として返ってきたように、サヤカへのむごい仕打ちも、前世でのサヤカの行いが招いたというのですか?」


 「自惚うぬぼれるでないぞ、メグルよ」

 煉獄れんごく長は険しい目つきでメグルを見据えた。

 「わしにはお前ごときには見えぬものが見えておる。無数の魂が揺らぐ大海のなかで、絡みつく粘液のように互いを繋いでおる因縁いんねんの鎖がの。そんな簡単なものではない」

 「じゃあどうして! なんでサヤカが……!」

 そこまで叫んでメグルは言葉を切った。

 煉獄れんごく長の言う通り、複雑に絡み合う魂の繋がりなど、管理人ごとき自分には到底とうてい理解できないことなのかも知れない。

 ただメグルにわかるのは、不幸な境遇にあったサヤカに追い討ちをかけ、希望を奪い、死へと導き利用した魔鬼がいるという事実――。


 メグルは涙をいて座り直すと、月明かりに青く染まった畳に視線を落としながら、吐き捨てるように言った。


 「煉獄れんごく長様は残酷だ。人間をいじめて楽しんでいるんだ。本当に救う気があるなら、魔鬼なんか皆殺しにすればいいじゃないか」


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