76 / 86
第14章 導くもの
01
しおりを挟む闇と共に現れた紅い月が、白く輝きを増しながら東の夜空を昇っていく。
月明かりに青白く照らされた旧校舎六階の廊下に、硬い靴音が近づいてくる。
「メグル、残念だったな。どう転んでもサヤカは助からねぇ。仕方なかったんだ」
サヤカを抱いたまま、うずくまっているメグルに声をかけたのはモグラだった。
メグルは何もこたえない。
と、どこからか、電話のベルの音が聞こえてきた。
モグラはおもむろにシルクハットを頭から取ると、まるで手品のように中から黒い受話器を取り出し、そのまま耳に当てた。
「なんでぇジジイか」
悲しみに暮れているメグルには、モグラが誰と話そうと関係ない。その声は遥か遠い街の喧噪のように耳に入っていなかった。
「けっ、何言ってやがる。どっからのぞいてんのか知らねぇが、いつもお見通しのクセによう。ご覧の通り越界門をぶっ壊して魔鬼を一匹撃退よ! おっぱじまるぜ。天魔との大喧嘩がな!」
モグラはメグルに背を向け、押し殺した声で怒鳴った。
「すっとぼけやがって! 平身低頭、事なかれ主義のあんたら役人は、いつも腑抜けばかり送り込んでくる。なのにメグルはどうだ。自尊心が強いうえに喧嘩上等、『修羅界』丸出しじゃねぇか。こうなることがわかってたんだろうがっ!」
それからしばらく不満げな態度で相づちを打っていたモグラは、やがて 「ちぇ……。わかったよう」と言い残すと、シルクハットの中に受話器を戻して、再び頭に被った。
そしてサヤカを抱いたまま、うずくまっているメグルに声をかける。
「アパートへ戻れメグル。煉獄長の呼出しだ」
メグルがようやく、泣き崩れた顔を少しだけ上げた。
「……なんで煉獄長が、モグラに連絡してくるんだ」
「長いこと管理人の手伝いをしてっからな。あとのことはおいらにまかせて、行けメグル」
メグルはまどろんだ我が子をそっとベッドに寝かせるように、サヤカの体をやさしく廊下に横たえた。
慈愛に満ちたその瞳は、立ち上がり、乱暴に涙を拭ったとたん、射るような鋭い視線に変わっていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
🌟ネットで探偵ものがたり 2024.2.11 完結しました
鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
志村けんさんと 木村 花さんの
死の真相を追います。
他の諸問題とも関係がありそうです。
2022.07.18
タイトルを、
「ネットで探偵ものがたり」に変えました。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
小助くんの小さなぼうけん
ケンタシノリ
児童書・童話
ある山おくで生まれた小助くんは、まだ1才になったばかりの赤ちゃんの男の子です。お母さんに大事にそだてられた小助くんは、森の中にいるたくさんの動物たちと楽しくあそんだりしてすごしますが……。
※子ども向けの創作昔話です。この作品で使う漢字は、小学2年生までに習う漢字のみを使っています。
※この作品には、おねしょネタ・おならネタ・うんこネタがしばしば登場します。作品をご覧の際には十分ご注意ください。
※この作品は、小説家になろう、pixiv(ピクシブ文芸)及びエブリスタにも掲載しています。
玲奈と、境ノ森町の魔法使い ―ワクワクはドラゴンと不思議を添えて―
杵島 灯
児童書・童話
“境ノ森町(さかいのもりまち)”に引っ越してきた小学五年生の女の子、彗崎(はくさき) 玲奈(れな)は、いきなりすごいワクワクに出会う。
なんと『夜空をホウキで飛ぶ男の子』と『小さなドラゴン』を見てしまったのだ。
ホウキで空を飛ぶ人間も、ドラゴンも、玲奈は今まで見たことがない。
しかもその男の子を玲奈は転校初日に同じクラスで見つけてしまった。
名前は、宝城(たからぎ) ヒスイ。
正体は、魔法使い!?
「オレの役目は『ちがう世界から入り込んできた悪い魔法使いたち』を、元の世界へ送り返すことなんだ」
「キュー! キュキュ!」
「……オレと、ドラゴンのキューイの役目は」
「キュ!」
普通なら見えないはずの『魔法使いたち』が見えちゃう玲奈は、ヒスイのお手伝いをすることに!
元気な女の子とちょっぴりひねくれた男の子、そして意外と可愛いドラゴンの物語。
イラスト:銀タ篇様
今、この瞬間を走りゆく
佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】
皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!
小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。
「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」
合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──
ひと夏の冒険ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる