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第14章 導くもの
01
しおりを挟む闇と共に現れた紅い月が、白く輝きを増しながら東の夜空を昇っていく。
月明かりに青白く照らされた旧校舎六階の廊下に、硬い靴音が近づいてくる。
「メグル、残念だったな。どう転んでもサヤカは助からねぇ。仕方なかったんだ」
サヤカを抱いたまま、うずくまっているメグルに声をかけたのはモグラだった。
メグルは何もこたえない。
と、どこからか、電話のベルの音が聞こえてきた。
モグラはおもむろにシルクハットを頭から取ると、まるで手品のように中から黒い受話器を取り出し、そのまま耳に当てた。
「なんでぇジジイか」
悲しみに暮れているメグルには、モグラが誰と話そうと関係ない。その声は遥か遠い街の喧噪のように耳に入っていなかった。
「けっ、何言ってやがる。どっからのぞいてんのか知らねぇが、いつもお見通しのクセによう。ご覧の通り越界門をぶっ壊して魔鬼を一匹撃退よ! おっぱじまるぜ。天魔との大喧嘩がな!」
モグラはメグルに背を向け、押し殺した声で怒鳴った。
「すっとぼけやがって! 平身低頭、事なかれ主義のあんたら役人は、いつも腑抜けばかり送り込んでくる。なのにメグルはどうだ。自尊心が強いうえに喧嘩上等、『修羅界』丸出しじゃねぇか。こうなることがわかってたんだろうがっ!」
それからしばらく不満げな態度で相づちを打っていたモグラは、やがて 「ちぇ……。わかったよう」と言い残すと、シルクハットの中に受話器を戻して、再び頭に被った。
そしてサヤカを抱いたまま、うずくまっているメグルに声をかける。
「アパートへ戻れメグル。煉獄長の呼出しだ」
メグルがようやく、泣き崩れた顔を少しだけ上げた。
「……なんで煉獄長が、モグラに連絡してくるんだ」
「長いこと管理人の手伝いをしてっからな。あとのことはおいらにまかせて、行けメグル」
メグルはまどろんだ我が子をそっとベッドに寝かせるように、サヤカの体をやさしく廊下に横たえた。
慈愛に満ちたその瞳は、立ち上がり、乱暴に涙を拭ったとたん、射るような鋭い視線に変わっていた。
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