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第13章 麦わら帽子
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しおりを挟む「さあ、ふたりきりの、月見祭りと参りましょう」
サヤカは廊下の奥、月明かりの影にいた。鱗粉のように漂う黒い霧が生み出す漆黒の闇のなかで、紅い瞳を光らせている。
「今夜、越界門を潜るはずだったのは我ら魔鬼。あの計画が成功していれば、沢山の生徒、保護者、教師たち、そのすべての死体に我ら魔鬼が乗り移る計画だった」
サヤカがゆっくりと腕を上げた。鋭く尖った爪でメグルを指差す。
「見てごらんメグル。我が同志たちが、お前の背後にある大鏡から見ているわ!」
ふり返えったメグルは、大鏡の中に黒い霧が立ち籠めているのを見た。
それは渦を巻きながらいくつもの黒い塊となって、鏡の中の廊下を這い回っている。
「いまから公開処刑を執行する。天魔王の壮大な計画の第一歩を無にした罪は重い。その魂、二度と魔界へ還れるなどと思うなよ!」
耳をつんざくようなサヤカの咆哮。
と同時に、廊下の窓ガラスが次々と砕け散った。
月明かりに照らされたガラス片が、ダイヤモンドダストのような無数の輝きとなって宙を舞うなか、黒揚羽と化したサヤカが迫り来る。
メグルは血だらけの右手で『魔捕瓶』を握りしめ、破れたマントをひるがえした。
が、一瞬姿を消したかに見えたものの、また廊下の中ほどに現れてしまう。
メグルは目を閉じて、静かに祈りを捧げた。
「声無き魂たちの叫びを、我が怒りと嘆きの声を聞き入れたまえ……」
そして『魔捕瓶』を持つ左手を高く掲げ、叫んだ。
「如来との契約を破り、魂を闇へと誘う魔鬼よ。我が為すことは、如来の為すことと知れ!」
「如来の名を語るな、自他を分つ反逆者どもめ! その体、八つ裂きにしてくれるわ!」
サヤカが再び咆哮した。
ガラスを引き裂くような音がメグルの耳をつんざき、『魔捕瓶』に亀裂が走る。
構わずメグルは呪文を唱えた。
「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界の法を犯す者よ。三世十方を統べる如来の名において、無限封印の刑に処す!」
サヤカは一瞬たじろぐも、『魔捕瓶』に走った亀裂がメグルの腕から胸にまで達し、ついには左半身が崩れ落ちるのを見て、狂ったような叫びを上げた。
「きゃっはああっ! 愚かなり六道メグル! 全ての真理は我にあり! 我ら天魔王こそが、全宇宙を統べる如来なりィイイイイイイっ!」
しかし亀裂はメグルに止まらず、メグルの奥に続いている廊下までもが、激しく音をたてて崩れていく。
異変に気付いたサヤカが廊下に降り立つ。
――瞬間、終わりを悟った。
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