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第12章 因果応報
01
しおりを挟む死は、その男に突然おとずれた。
それは苦しいものではなく、むしろ安らぎに近かった。
視界に映るのは真っ白な天井。その端から妻と子どもの顔がのぞき込み、懸命に何か話しかけている。
男はぼんやりとその光景を眺めながら(死ぬ瞬間とはこんなものか)と思っていた。
残す家族が気がかりだったが、なぜか安心してもいいという、妙に確信めいたものを感じた。
(親子の絆は取り戻した。残された試練もふたりで支え合い、乗り越えるだろう……)
そして、命が尽きた。
瞬間、男の意識は重い鎧を脱ぎ捨てるように体から抜け出し、天に向かってに飛びたつ……はずだった。
メグルが重いまぶたを開けると、目の前にぼんやりと黒ずくめの男が見えた。生ゴミのような匂いを放つその男は、力の限りのフルスイングでメグルの頬をビンタしている。
(こいつはきっと死神だ。間違いない……)
「絶対安静の患者です! 何してるんですかっ!」
純白の天使が飛んできて死神を取り押さえるも、死神は天使をふり払ってメグルにしがみつき、今度は頬をグーで殴り始めた。
「死ぬんじゃねえぜ、メグル! お前さんには、まだまだ仕事が残ってるだろうが!」
危篤状態の少年を殴り続けるなんて、正気の沙汰とは思えない。女性看護師たちは顔を青ざめさせながらも、必死にモグラを引き離そうとした。
しかし次の瞬間、彼女たちは信じられない光景を見る。
「痛い……。痛い痛い、痛ああぁい! そんなに殴ったら、ほんとに死んじゃうでしょうがあっ!」
大声で叫びながら、メグルが飛び起きた。
「トモルと清美は!?」
モグラの襟首をつかんで叫ぶメグルに、モグラは親指で指差した。呆然と立ち尽くす看護師たちのうしろに、清美とトモルの姿があった。
モグラから手渡された『星見鏡』を掛けて、清美を見る。
「お前さんが家族を守ったんだ。壊れた絆もしっかり修復してな。そうだろ?」
メグルは強くうなづいた。
清美の頭上で試練星のひとつが光り輝いている。だが星を見るまでもなかった。トモルは清美の手を握り、清美はトモルの肩をしっかりと抱いている。
(ふたりに向けられた誹謗中傷は、そう簡単には止まないだろう。しかしもうこのふたりに何があろうと大丈夫。真実を訴える力がある。すべての困難を乗り越える、親子の太い絆がある……)
そう確信して、メグルは深く安堵の息を吐いた。
と、そのとき、メグルたちのいる集中治療室のドアが勢いよく開いた。
「無事……なのかね……?」
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