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第11章 サヤカ

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 あまりにむごいサヤカの過去に、メグルは言葉を失った。

 (ぼくはなんてバカなんだ。あれほど一緒にいながら、トモルの心の叫びも、サヤカの心の闇にも、まったく気付かなかったなんて……)

 自己嫌悪しながらも、必死になって自分に言い聞かせる。

 (いまは悲しんでいる場合じゃない。なんとしてもこの計画を阻止して、ふたりに過ちを犯させないようにしないと……)

 そしてメグルは気が付いた。この計画を主導しているのはトモルではなく、サヤカだということに。


 「ねえサヤカ、聞いて……」

 メグルは激高に震えているサヤカの背中に、そっと声をかけた。

 ふり返ったサヤカの瞳は、トモルとは比較にならないほど怒りと憎しみにあふれていたが、同時に涙に濡れていた。

 その姿にメグルは引き裂かれるような胸の痛みを覚えるも、ぐっとこらえて、サヤカの説得を試みた。

 「クラスのみんなが学校裏サイトのデマに操られてトモルをいじめたように、きみも誰かに操られているんだ。きみのつらい過去を知っている者が、きみのお母さんへの想いを巧みに利用して犯罪に誘導している……。これは罠だよ、目を覚ますんだ」

 サヤカの瞳から感情が消えていく。

 まるで言葉も意思も通じない物体を見るような光ない瞳で、じっとメグルを見つめている。


 「怖いの? メグルくん」

 そしてメグルのそばへ寄り、そっと耳元にささやいた。

 「大丈夫よ。わたしたちは死なない。このふたつの液体から出る毒ガスは、空気より重いの。六階までのぼってこないわ……」

 サヤカはメグルを教室のうしろへ連れて行き、ロープの端を窓際の手すりに結びつけた。こうなってはもう理科室を抜け出して、みんなに危険を知らせることはできない。

 メグルは清美の様子を盗み見た。

 教室のうしろで力なくうなだれている清美は、逃げる気力もないと判断されたのか、体に巻かれたロープの端はどこにも結ばれていなかった。

 そのとき、終業のチャイムが校内に鳴り響いた。
 色とりどりの傘が、新校舎の昇降口から飛び出してくる。

 「今日の授業は午前中で終わり。この雨も午後にはあがる。あとは『月見祭り』までに、この雨雲がどこかに消え去ってくれるのを待つだけ……」

 サヤカは独り言のようにそうつぶやくと、膝を抱えて窓際に座り、空を見上げた。


 サヤカの決意は固いーー。

 言葉で諭すことが無理だと判断したメグルは、力づくで計画を阻止すべく、身の回りを注意深く観察した。すると足もとに割れたビーカーの破片が転がっているのを見つけた。


 (トモルもサヤカも、こんなことをする子じゃないんだ。ふたりに過ちを犯させるわけにはいかない。絶対にこの計画は阻止してみせる!)


 メグルはふたりの様子をうかがいながら腰を下ろすと、後ろ手にビーカーの破片を拾い上げ、密かにロープを削り始めた。


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