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第11章 サヤカ

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「メグルくんに説明してあげて。トモくんの復習計画!」

 トモルは手にハンマーをたずさえ理科室正面の教壇へ進み出ると、覚悟を決めるように大きく息を吸い、声を張り上げた。

 「今日、ぼくをいじめたやつら全員を地獄へ叩き落とす!
 今夜七時、校庭に生徒と保護者が集まって『月見祭り』が開催される。そのとき、窓際に置かれたふたつの水槽に、このハンマーで穴を開けるんだ。ぶちまけられた液体は空中で混ざりながら校庭に降り注がれる。このふたつの液体は、保健室から毎日こっそり持ち出してきた薬品と、薬局で買い込んだ薬品を溶かしたもので、ふたつが混ざると強力な毒ガスが発生する。
 新校舎と体育館、そしてこの旧校舎に囲まれた校庭にこの毒ガスを充満させれば、誰ひとり生きて帰ることはできないだろう!」

 以前の弱々しかったトモルの眼差しは、いまや怒りと憎しみにあふれる、鋭い目つきへと変わっていた。


 「昨夜、トモくんに学校のパソコンで学校裏サイトを見せたの。ショックを受けると思っていままで秘密にしていたけど、逆にいじめっ子たちに、宣誓布告をするほどだったのよ!
 見てメグルくん、いじめられっ子だったトモくんが、こんなにも強くなったの!」

 サヤカはまるで自慢の息子を紹介する母親のように、目を輝かせてトモルを見つめていた。


 「違うよサヤカ……。こんなの強さじゃない」

 メグルの目に、保健室で初めて会ったときのトモルの姿が浮かぶ。

 友だちになってと言ったときの、はにかみながらも嬉しそうなトモルの笑顔。あんなにも素直な表情を見せるトモルが、ここまで恐ろしい計画を考えるほど追い詰められていたことに、メグルは友として、そして元父親として、胸をえぐられるような痛みを感じた。


 「やめろトモル。そんなことをすれば、きみはとんでもない犯罪者になってしまう。自分で自分を追い込んでいるだけだ。それに清美……、いや、お母さんだって悲しむよ」

 「お母さんも同罪だ!」

 トモルはメグルから目をそむけて、吐き捨てるように叫んだ。

 「ぼくが学校でいじめられているとき、お母さんはいつもお酒ばかり飲んでいたんだ。ぼくが助けてほしいときも、まるで気付いてくれやしなかったんだ……」

 トモルの涙が、ぽろりとひと粒、床に落ちる。

 「約束したのに! お父さんがいなくても、ふたりで助け合ってがんばっていこうって、約束したのに! それなのに!」


 ずっと黙ってうなだれていた清美が、トモルの叫びと床に落ちた涙を見て、ようやく顔を上げた。

 「ごめんねトモル。トモルがこんなにも追い詰められていたのに、お母さん、トモルのこと気にかけてやれなくて……。お母さんもまわりの大人たちにいじめられていたの。お父さんが亡くなったばかりで、もうどうしていいかわからなくなって、ついお酒に逃げて……」


 トモルが涙で濡らした顔を上げた。
 弱々しい瞳で見つめ返す清美と視線が繋がったとたん、突然サヤカが叫んだ。


 「そんなの言い訳にもならないわ!」




 
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