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第10章 それぞれの邂逅

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「その必要はない」

 突然、背後から聞こえた低い声に、ふたりは飛び上がるほど驚いた。
 ふり返ると、校務員室の引き戸越しに鋭い視線を向けていたのは、教頭だった。


 「聞こえなかったのか? 四時限目の始業のベルはとっくに鳴っている。教室に戻れ」

 「あ、あの教頭先生! 六年三組のはらトモルくんが昨夜から行方不明で、校内を捜していたお母さんもいなくなって……。それで先生の誰かが一緒だったらしいんですけど、知りませんか?」

 あたふたとなりながらも一息で説明するサヤカのとなりで、メグルはカバンの中に右手を突っ込み、教頭を睨んでいた。


 「知っている。一緒に校内を捜したのはわたしだ」

 その言葉にメグルが立ち上がった。


 「清美を……トモルのお母さんをどこに隠した!」

 睨みつけるメグルを、教頭はさらに鋭い視線で睨み返した。


 「何をバカなことを。きみはしっかりした生徒だと思っていたが、ずいぶん頓珍漢とんちんかんなことを言うのだな。行方不明の生徒については、すでに警察に捜索願いを出している。母親は警察に呼ばれて、事情を説明しに行っているはずだ。お前たち子どもの出る幕などない。さっさと授業に戻れ!」


 「……逆らわない方がいいよ」

 サヤカはメグルにそっと耳打ちすると、メグルの腕をつかんで素早く教頭のわきをすり抜け、校務員室を飛び出した。



 新校舎の階段に、授業をする教師たちの声が静かに響いている。
 サヤカはメグルの手を引きながら、教室へと向かっていた。


 「あぁ怖かった……。教頭先生ってすごい迫力。なんか人間離れしてるよね」

 笑いながら話しかけるサヤカの手から、メグルの手がふいに離れた。
 ふり返ると、メグルは階段の踊り場でひとり立ち尽くしている。


 「ごめんサヤカ。教室にはひとりで戻って」
 うつむいたまま、メグルは続けた。

 「うまく言えないけど犯人は教頭なんだ。トモルも、トモルのお母さんも、きっとこの学校のどこかに閉じ込められている」


 「落ち着いてメグルくん」
 サヤカは階段を下りて、メグルの肩にそっと手を添えた。

 「先生がそんなことするわけないじゃない。トモくんが心配で、パニックになっているのよ」

 うつむくメグルの顔をのぞき込み、やさしく微笑む。
 しかしメグルは首を横にふった。


 「違うよサヤカ。桜子先生だって共犯だったんだ。ぼくを街に連れ出して学校に近寄らないようにしていた。そのあいだに教頭がトモルのお母さんを誘拐したんだ……。
 本当なんだよ。やつらは巧みに人間を追い込んで、生きる希望を奪って……」

 そこまで言ってメグルは言葉を切った。こんな突拍子とっぴょうしもない話を人間に説明しても、理解してくれるはずがない。

 しかしサヤカは怪訝けげんな顔をすることなく、静かにメグルを見つめていた。


 「メグルくん、どうしたいの?」

 「旧校舎が怪しいんだ。あそこなら人目につかない。きっとトモル親子はそこにいる!」

 サヤカはまた黙り込んで、じっとメグルを見つめていた。
 やがて目を閉じると、はぁっと小さく溜め息をついてから、にっこりと微笑んだ。


 「……なら、わたしも一緒に行くよ」


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