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第10章 それぞれの邂逅
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しおりを挟む屋根の付いたショッピングモールは、駅前から大通りまで続いている。その中をメグルは少女と歩いていた。通勤する人の波はすでに消えている。
少女はとなりを歩く、自分の半分ほどの背丈しかないメグルの顔を度々のぞき込んでは、 「どっかで会ってるよね?」と訊ねたが、そのたびにメグルは首を横にふった。
「わたしさ、両親の顔見るたびにイライラして、よく家出してたの。どうしようもない親でさぁ。パパは仕事ばっかだし、ママはそんなパパに怒るどころか、毎晩遊び歩いて朝帰り……。
あんな家に帰るくらいなら、どっかで野垂れ死んだって構わないなんて思ってた。どうせ家族はバラバラ、わたしが死んでも誰も悲しまない。なら生きてる価値なんてないじゃん! ってさ。そしたら誰かに説教されたのよね。夢かも知れないけど……」
少女がメグルの顔を再びのぞく。
メグルはその視線から逃れるように、そっぽを向きながら訊ねた。
「その、どうしようもない両親と、仲直りできたんですか?」
「そんな簡単に仲直りなんてできる訳ないじゃん! わたしとそっくりで自己中な親なんだから……。でもね、なぜかビルの屋上にいたわたしに、見ず知らずの沢山の人たちが、とっても温かい笑顔を向けて励ましてくれたのよ。がんばれよ~ってさ。嬉しかったなぁ……。あの瞬間、一気に世界が変わったんだ」
無言で見上げるメグルに、少女は続けた。
「世界がぐんっと広がったの! なんであんなに狭い家庭の問題で死んだって構わないとまで考えたんだろうって。ずいぶん小さな世界で悩んでたんだなぁってさ。
あのとき、わたしは大人になった。自立できたのよ。……結局甘えてたのよね。親はこうあるべきじゃないか! ってさ。ガキだったんだなぁ……」
「それから、どうしたんですか」
「家を飛び出した!」
「また家出ですか?」
「そうよ、家出。でも以前とはまったく違う家出。あの両親にふてくされているばかりじゃダメだって気付いたの。一度きりのわたしの人生なんだもん、誰かのせいにしたって何も解決しないじゃない?
いまはここで夜働いて、昼はまんが喫茶で寝泊まりしてるんだ。そうすれば、両親と顔会わせてイライラする事もないしね」
そう言って少女が見上げた店は、二十四時間営業のドラッグストアだった。
「野垂れ死ぬより、ずっといいですよ」
メグルもその店を見上げながら言った。
「でしょ。親と離れて暮らし始めたら、お金を稼いで生きていくって、それだけで結構大変なんだって気付いてね……。感謝っていうのかわかんないけど、いまはほんのちょっとだけど、両親と電話で話もするんだよ」
少女がメグルを連れてドラッグストアに入ると、レジカウンターにいる中年の女性が話しかけてきた。
「あらどうしたの。忘れもの?」
「この子、以前、副店長が話されていた、例の男の子の友だちかも知れないんです」
副店長と呼ばれた女性が、カウンター越しにメグルの顔をのぞき込む。
「トモルを知っているんですか?」
メグルの言葉に副店長は、はっとした。
「そうそうトモルくんよ、原さんちのね! 最近見ないけど、以前はよく親子で来てたのよ。どうりで見た顔だと思ったわ!」
「この店に来たんですか?! いま捜しているんです。行方がわからなくって」
副店長と少女が、突然、不安そうに顔を見合わせた。
「昨日までしょっちゅう来てたのよ。頼まれたからって、ある薬を買いに……。でも、あんまり頻繁に同じ薬を買いに来るものだから、心配になって聞いたのよ。本当にお父さんに頼まれたのって。そしたら、逃げるように店から出て行っちゃってねぇ……」
メグルの背中に悪寒が走る。
(トモルに父親がいるはずもない。自分がその父親だったのだから……。その子が本当にトモルなら、トモルは嘘をついて薬を買っていることになる)
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