上 下
51 / 86
第9章 捜索

03

しおりを挟む

「……それがどうかした?」

 桜子先生が、ついにその口を開いた。

 「わたしはただサイトを開設して悪口を書き込んだだけ。あの親子はサイトを見ていないし、わたしは何も危害を加えてないわ」

 「先生は自分の手を汚さずに、あのサイトを見た親や生徒たちの悪意を利用して、トモルと清美を追い込んだんだ!」

 メグルが静かに続ける。


 「本能のままに生き、他をかえりみることがない。善悪に頓着とんちゃくが無く、命を平気でもてあそぶことがある。まるで小動物をいたぶる猫のように……。
 おろかなるは畜生ちくしょう。先生は『畜生ちくしょう界』から来た越界者えっかいしゃですね」


 桜子先生の背中が、かすかに揺れている。

 「んふふ……。何を言ってるの? メグルくん変だわ。まるで管理人みたい」

 「語るに落ちましたね、先生。管理人を知っている人間などいない!」

 「あっはは!」

 背を向けたまま、桜子先生は手を叩いて笑いだした。


 「ダメねぇ。まだこの世界に慣れてなくって……。ああ、大変だった。人間のフリするのも苦労するわ……」

 くるりとふり返ったその瞳は、ぎゅっと細長く、黄色に怪しく光っていた。


 「たった一行の文章で、昨日までの友だちを裏切るんだもの。笑えるったらないわよ! 人間なんて上等なもんじゃないわ。ほんと単純。おバカな操り人形よ!!」


 メグルはカバンから取り出したマントを羽織はおり、右手に『魔捕瓶まほうびん』を掲げた。

 「やっぱり、あの方の言った通り、メグルくんは『管理人』だったのねぇ。
 でも、こんなに遠くまで誘い出せたんだから、わたしの仕事は大成功! この計画が成功すれば、わたしは魔鬼として生まれ変わり、魔界に迎えられるの。ここでメグルくんに捕まって地獄界に堕とされても、すぐに天魔王てんまおう様が迎えに来てくれるわ」

 桜子先生は腰を落として丸くなると、思い切り地面を蹴った。空高く舞い上がったその姿が、闇夜に紛れる。


 「そんな単純なエサに釣られるのも『畜生ちくしょう界』の現れですよ、先生!」

 メグルは『魔捕瓶まほうびん』の栓を抜き、桜子先生めがけて放り投げた。


 「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界じっそうかいの法を犯す者よ。管理人の名において、地獄界送りの刑に処す!」


 遥か頭上を飛翔する、ビルのネオンを背にした桜子先生のシルエット。

 ぐにゃりと歪んで『魔捕瓶まほうびん』に吸い込まれたかに見えたとき、そのシルエットから細長い尻尾が生えて、鞭を打ったような強烈な音が真夜中のビル街にこだました。

 目の前に迫り来る物体が、跳ね返された『魔捕瓶まほうびん』だと認識できたときには、メグルの額に激痛が走っていた。

 無数の星がほとばしり、視界が闇に沈んでいく。


 桜子先生は音もなく着地すると、もんどり打って倒れるメグルを睨みつけながら、地面に転がる『魔捕瓶まほうびん』を踏みつけて割った。


 「甘ク見るナよ、メグルゥウッ!」


 黄色の瞳がギラリと光る。その指先から、鋭い爪がのびた。

 態勢を低くし、裂けたスカートからのぞかせた長い尻尾をゆらりと揺らしつつ、うずくまるメグルに照準を定め飛びかかろうとした。


 その瞬間――。


 ガラリという音とともに桜子先生の姿が忽然こつぜんと消えた。
 かわりに地面からひょっこりと顔を出したのは、モグラだった。


 「おひょ。間一髪! 大丈夫かメグル」

 メグルが額を押さえ、よろめきながら立ち上がる。

 「痛てて……。わりと早かったじゃないか」

 「おいらの下水道網をバカにすんなよ? 地上の十倍は速く移動できるぜ」


 モグラはひょいっと地上に出ると、マンホールの蓋を閉め、どっかと上に座った。

 「このマンホールの中は行き止まりにしておいた。桜子先生は袋のネズミ……。いや、袋の化け猫か。
 それよりメグル、お前さんは急いでトモルを捜してくれ。おいらが学校を出る直前、例のサイトに妙な書き込みが投稿されたんだ」


 「妙な書き込み?」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ようやく死ねた吸血鬼、転生したら動画配信者にさせられた件

ウケン
ファンタジー
「……もう動画とか……見たくないッ!!!」 古(いにしえ)から生きてきた不死身の吸血鬼の男(チート級最強生物)は、YouTubeや動画のサブスクを観る毎日。 かつては知り合いや友と呼べる人間も少しだけいたが、全員老人になり、そして死んでいった。 その内、生きる気力も無くなり、食って飲んでを繰り返した結果、髭ボーボーでものすごい肥満体になる。 あまりの人生の虚しさ、孤独感にいつも死にたいと願っていた男だが、ついに優秀なエクソシストが現れて、ようやく『死ねた』。 (……やったーー!!!ついに……!) やっと死ねた吸血鬼は、人間が言う『あの世』に期待感を寄せながら、自分を消し去る光の中へ飲み込まれていく。 ーーーそして、目を覚ますと、吸血鬼の男は、その『不死身の特性』そのままに、異世界に転生してしまっていた。 (……なんで!?) その異世界で仲間になった、男勝りな美少女カトリーナ。 彼女は異世界で『底辺動画配信者』として活動していたが、吸血鬼の男のモンスター狩りや戦闘の動画を『ライブ配信』していた。 その結果、男とカトリーナは世界中から注目される人気動画配信者となってしまう。 さらに婚約破棄された令嬢、そのメイド、反社のような司教など、次々とクセのある仲間が増えていく男。 ーーーそして、異世界の中で吸血鬼の男の過去を紐解くと、色々な真実が明らかになっていく。 ギガントモンスター、最強の海賊、ヤバい大司教、究極の魔王など、立ちはだかる敵と仕方なくバトルするも、その様子は全世界に『中継』されている男。 果たして死を願い続ける不死身の男は、今度こそ異世界で『死ぬ』ことができるのか? 基本毎日更新です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

下出部町内漫遊記

月芝
児童書・童話
小学校の卒業式の前日に交通事故にあった鈴山海夕。 ケガはなかったものの、念のために検査入院をすることになるも、まさかのマシントラブルにて延長が確定してしまう。 「せめて卒業式には行かせて」と懇願するも、ダメだった。 そのせいで卒業式とお別れの会に参加できなかった。 あんなに練習したのに……。 意気消沈にて三日遅れで、学校に卒業証書を貰いに行ったら、そこでトンデモナイ事態に見舞われてしまう。 迷宮と化した校内に閉じ込められちゃった! あらわれた座敷童みたいな女の子から、いきなり勝負を挑まれ困惑する海夕。 じつは地元にある咲耶神社の神座を巡り、祭神と七葉と名乗る七体の妖たちとの争いが勃発。 それに海夕は巻き込まれてしまったのだ。 ただのとばっちりかとおもいきや、さにあらず。 ばっちり因果関係があったもので、海夕は七番勝負に臨むことになっちゃったもので、さぁたいへん! 七変化する町を駆け回っては、摩訶不思議な大冒険を繰り広げる。 奇妙奇天烈なご町内漫遊記、ここに開幕です。

[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます

はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。 果たして恋人とはどうなるのか? 主人公 佐藤雪…高校2年生  攻め1 西山慎二…高校2年生 攻め2 七瀬亮…高校2年生 攻め3 西山健斗…中学2年生 初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!

壊れたオルゴール ~三つの伝説~

藍条森也
児童書・童話
※伝説に憧れただけのただの少年が、仲間と共に世界の危機に立ち向かい、世界をかえる物語。 ※2024年10月14日20:00より、  第二部第九話開始。 ※第二部九話あらすじ  「天詠みの島に向かう」  マークスの幽霊船の迎えを受けて、そう決意するロウワン。  世界は自分が守ると決意するプリンス。亡道の司を斬る力を手に入れるため、パンゲア領にこもるという野伏とレディ・アホウタ。野性の仲間たちに協力を求めるため、世界を巡るというビーブ。  それぞれに行動する仲間たちにあとを任せ、メリッサとふたり、マークスの幽霊船に乗って天詠みの島ほと向かうロウワン。  そのなかに表れる伝説の海の怪物。  はじまりの種族ゼッヴォーカーの導師との出会い。  メリッサの決意と、天命の巫女。  そして、ロウワンが手に入れる『最後の力』とは……。 ※注) 本作はプロローグにあたる第一部からはじまり、エピローグとなる第三部へとつづき、そこから本編とも言うべき第二部がはじまります。これは、私が以前、なにかで読んだ大河物語の定義『三代続く物語を二代目の視点から描いた物語』に沿う形としたためです。  全体の主人公となるのは第一部冒頭に登場する海賊見習いの少年。この少年が第一部で千年前の戦いを目撃し、次いで、第三部で展開される千年後の決着を見届ける。それから、少年自身の物語である第二部が展開されるわけです。  つまり、読者の方としてはすべての決着を見届けた上で『どうして、そうなったのか』を知る形となります。  また、本作には見慣れない名称、表現が多く出てきます。当初は普通に『魔王』や『聖女』といった表現を使っていたのですが、書いているうちに自分なりの世界を展開したくなったためです。クトゥルフ神話のようにまったく新しい世界を構築したくなったのです。そのため、読みづらかったり、馴染みにくい部分もあるかと思います。その点は私も気にしているのですが、どうせろくに読まれていない身。だったら、逆に怖いものなしでなんでもできる! と言うわけで、この形となりました。疑問及び質問等ございましたらコメントにて尋ねていただければ可能な限りお答えします。 ※『カクヨム』、『アルファポリス』、『ノベルアップ+』にて公開。

クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ
児童書・童話
わたしには、同い年の幼なじみがいる。 イケメンで、背が高くて、 運動神経抜群で、頭もよくて、 おまけにモデルの仕事もしている。 地味なわたしとは正反対の かっこいい幼なじみだ。 幼い頃からずっといっしょだったけど、 そんな完璧すぎる彼が いつしか遠い存在のように思えて…。 周りからはモテモテだし、ファンのコも多いし。 ……それに、 どうやら好きなコもいるみたい。 だから、 わたしはそばにいないほうがいいのかな。 そう思って、距離を置こうとしたら――。 「俺がいっしょにいたい相手は、 しずくだけに決まってんだろ」 「しずくが、だれかのものになるかもって思ったら…。 頭ぐちゃぐちゃで、どうにかなりそうだった」 それが逆に、 彼の独占欲に火をつけてしまい…!? 「幼なじみの前に、俺だって1人の男なんだけど」 「かわいすぎるしずくが悪い。 イヤって言っても、やめないよ?」 「ダーメ。昨日はお預けくらったから、 今日はむちゃくちゃに愛したい」 クールな彼が 突然、わたしに甘く迫ってきたっ…! 鈍感おっとり、控えめな女の子 花岡 しずく (Shizuku Hanaoka) × モテモテな、完璧すぎる幼なじみ 遠野 律希 (Ritsuki Tōno) クールな幼なじみが本気になったら――。 \ とびきり甘く溺愛されました…♡/ ※ジュニア向けに中学生設定ですが、 高校生の設定でも読める内容になっています。

異世界子ども食堂:通り魔に襲われた幼稚園児を助けようとして殺されたと思ったら異世界に居た。

克全
児童書・童話
両親を失い子ども食堂のお世話になっていた田中翔平は、通り魔に襲われていた幼稚園児を助けようとして殺された。気がついたら異世界の教会の地下室に居て、そのまま奴隷にされて競売にかけられた。幼稚園児たちを助けた事で、幼稚園の経営母体となっている稲荷神社の神様たちに気に入られて、隠しスキルと神運を手に入れていた田中翔平は、奴隷移送用馬車から逃げ出し、異世界に子ども食堂を作ろうと奮闘するのであった。

処理中です...