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第9章 捜索
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しおりを挟む(どのくらい時間が経っただろう……)
キッチンカウンターに置かれた時計を見ると、すでに日付が変わっていた。
トモルはまだ帰っていない。
清美の熱は徐々に下がりつつあったが、日々の心労のせいか、まだひどく衰弱しているように見える。
しかしメグルは一緒にトモルを捜しに行くよう強く促し、ふたりで家を出た。
(前世での父親として、清美とトモルの絆をなんとしても取り戻し、清美が増やした『試練星』を光らせる!)
そう心に決めていたのだ。
ふたりはまず学校へ向かうことにした。
途中、清美が携帯電話で担任の桜子先生に連絡すると、彼女は「是非わたくしも一緒に捜しますわ!」と、普段は見せない熱血教師魂を発露し、学校で落ち合うことになった。
「トモルくんのお母さまぁ!」
学校へ着くなり、校門から桜子先生とモグラが飛び出してきた。
「校内はわたくしが隈無く捜しましたわ。わたくし、ちょっとだけ心当たりがありますので、メグルくんとそちらを捜してまいります。お母さまは、このモグ……いえ、ドリュウさんと、校務員室でお持ちになっていてくださぁ~い!」
桜子先生はそう言うと、清美の返事も待たずにメグルの腕をつかみ、街へと駆け出していった。
「あんなに張り切っちゃって……。桜子先生はとっても生徒想いのやさしい先生ですよ。信じて待ちましょう」
モグラは清美を校務員室へ連れて行くと、自分のアジトから持って来たノートパソコンを開いて学校裏サイトを見せた。自分たち家族に向けられた根拠のない誹謗中傷を目の当たりにして、清美の顔がみるみる青ざめていく。
モグラはいまにも気を失いそうな清美に横になるよう促すと、
「こんな嘘を書き込むやつはね、必ず地獄に堕としてやりますよ! ……メグルが!」
と言って、目にも留まらぬ速さでキーボードを叩き始めた。
モグラには調べることがあった。トモルや清美の嘘情報を最初に書き込み、ふたりに地獄の苦しみを与えた張本人を探し出すつもりなのだ。
*
一方メグルは桜子先生に引き連られ、真夜中の街をひたすら走っていた。
学校を出てからおよそ二時間、一度も休まず全力で走り続けている。
「心当たりって……、どの辺りなんです……か? タクシーを……使いま……せんか?」
息を切らせたメグルが、涙ながらに訴えても、
「走りながらも捜しているのよぅ。メグルくん、お友だちが心配じゃないのぉ!」
桜子先生は一切聞く耳を持たず、さらにスピードを上げて走った。そのぽっちゃりとした体型に似合わず、桜子先生はよく走る。
と、どこからか現れたのか、気が付けばメグルのあとを数匹の猫がついてきている。
(……なんだろうこの猫たちは? 死にかけた動物のあとを、ハゲタカやハイエナはついてくるというけれど、ぼくは今にも死にそうに見えるのかな……)
すると、桜子先生がスーツのポケットから香水を取り出して、首のあたりに振りかけた。かすかに甘い香りがあたりを漂い、猫たちが身をよじりながら興奮する。
(あの香水に反応しているのか……。猫が好きなマタタビの成分でも入っているのだろうか? あれ、マタタビといえば、どっかで……)
メグルが前髪をくるくると指に絡ませていると、桜子先生は、ふたたびスーツのポケットに手をつっこみ、びりびりと震える携帯電話を取り出した。
走ったままうしろに手をのばし、携帯電話をメグルに差し出す。
「お父さまからよぅ」
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