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第8章 前世の妻
04
しおりを挟む「お帰りなさい、あなた……」
ガチャ――。
受話器を取る音がインターホンから聞こえて、メグルは現実に戻った。
「……どなた」
再び暗闇に包まれた玄関前に響くその声は、とても小さく弱々しい。
「あの、ちょっとお聞きしたいことが……」
そう言った途端、がちゃりと通話が切れた。
メグルは再びインターホンのボタンを押した。しかし応答はない。
何度も何度も押し続け、ついには大声で叫んでいた。
「トモルくんのことで話がしたいんです! ぼくは……」
メグルの言葉が詰まる。
(何と言えばいいのだろう? 何を言えば、このドアを開けてくれるのか?)
こたえが出る前にメグルは叫んでいた。
「ぼくだよ、清美! ただいまっ!」
メグル自身、自分の言葉に驚いた。
(そうだ、清美! 妻の名前だ!)
しかし勢いよく開いたドアから飛び出してきた女性を見て、メグルは絶句する。
頬は痩せこけ、目は落ち込み、その顔は憔悴しきっていた。
それでもメグルの頭の中に少しずつ妻の笑顔が思い出されていく。思い出されていくほどに、いまの変わり果てた清美の姿が胸をしめつけた。
清美は必死に何かを探し求めるように辺りに視線をさまよわせていた。正面に立つメグルの姿など、まるで目に入っていない。
「清美……」
消え入りそうなメグルの呟きに、ようやく清美が目を合せた。
その瞳にわずかな驚きの色を浮かべながら、じっとメグルの目を見つめている。
「ぼくは……」
自分は夫だと思い切り叫びたかった。やつれた妻を、抱きしめてやりたかった。
「……ぼくの名は六道 輪廻。トモルくんと、あなたの味方です!」
何もできないメグルはそれだけ言うと、ぎゅっと拳を握りしめたまま、清美を見つめ返した。
じっとメグルの瞳を見つめる清美ーー。
しばらくして清美は、何もこたえずにドアを開け放したまま、家の中へと入っていった。
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