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第7章 クラスメイト

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 「そこにもいるぞ。あっ、あそこにも。早く捕まえろ!」

 どこから来たのか、体育館裏の草むらは沢山の大きなバッタであふれていた。

 「うわぁ、すげえ! 全部捕まえて、みんなに見せびらかそうぜ!」

 巨大バッタに狂喜乱舞きょうきらんぶする男子たち。しかし、いくら昆虫好きの小学生男児といえども、次々と現れる大量のバッタを前に、次第に恐怖を感じ始めつつあった。

 「おい、なんか変だぞ。これじゃ、おれたちがバッタに追い詰められているみたいだ……」

 男子たちを囲むようにして跳ね回るバッタの群れ。そのなかでも一段と大きなバッタが、へたり込んでいるタカシの顔にとまった。

 「ぎゃあああああっ!」

 石階段を転げ落ちながらあげたタカシの悲鳴をきっかけに、一気にパニックが広がる。

 「逃げろ、喰われるぞ!」
 「さっき追いかけ回したバッタが、仲間を引き連れ復讐に来たんだぁ!」

 飛び回るバッタを手で払いのけながら右往左往うおうさおうするタカシたち。そのとき、緑色の巨大な物体が、草むらからにょっきりと顔を出した。

 「で、出た……。バッタの化け物……だ……」

 ついには泡を吹いて失神してしまうタカシ。
 そんなタカシに目もくれず、男子たちは一目散にその場から逃げ出していく。同時に、あれほど大量にいたバッタの姿も、風に吹かれたかすみのように消えていった。


 「誰がバッタの化け物だ。ドリュウ様の顔を忘れたのか」

 巨大バッタの正体は、作業服を着込んだモグラだった。

 「あの沢山のバッタは、モグラの仕業しわざか」
 バッタの大群にも微動だにせず立ち尽くしていたメグルが、視線もくれずにたずねる。

 「まあな。草刈りしながら、お前さんが土下座させられるとこまでは、楽しく見物してたんだけどよう。さすがにあんな顔を見せられちゃあな……」

 メグルは静かに、長い息を吐いた。
 「助かったよ。いまにも、ひねり潰すところだったんだ……」

 失神しているタカシを見下ろしながら、つぶやく。


 本気で言っているのか、冗談なのか――。


 いずれにしても、怒り狂う阿修羅あしゅらのごときメグルの形相ぎょうそうの当たりにしたモグラは、何も言い返せなかった。


          *


 「大鏡の幽霊話の件、噂の発信元がわかったぜ」

 そうモグラが切り出したのは、体育館裏から校務員室に戻り「まあ落ち着け」とメグルに冷たい麦茶を出したときだった。



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