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第6章 旧校舎の大鏡
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しおりを挟む昼休みの終わりを告げるチャイムが響くなか、メグルとサヤカは体育館の裏道を歩いていた。
膝までのびた雑草をかきわけながら進むと旧校舎の裏口が見えてくる。
錆び付いて鍵の壊れたドアには鎖が巻かれ南京錠が掛けられていたが、力いっぱいに引くと、子どもの体ならなんとか入れる隙間ができた。
埃っぽい旧校舎の中へ足を踏み入れる。
午後の授業の始まりを告げるチャイムが、新校舎から聞こえてきた。
「ふたりで授業さぼっちゃうなんて、みんな大騒ぎだろうね」
そう言いながらも、サヤカの目はきらきらと輝き、楽しそうに見える。
窓から入る日差しで旧校舎の中はむんと熱気がこもっていたが、誰もいない廊下は不気味なほど静かで、不思議と肌寒さを感じた。
するとサヤカは一転、子どもらしく怯えた表情でメグルの腕をぎゅっと掴んだ。
「わたし、ここに入ったの初めて……。なんかお化けとか出そうじゃない?」
「大丈夫。こんな真っ昼間から、お化けなんか出やしないよ」
メグルの言葉に、サヤカはいくぶん安堵した表情でうなづいてみせたが、メグルの腕を掴むその手に、力がこもるのがわかる。
(こんなに怖がるなんて、まだまだ子どもなんだな。でも、もう少し付き合ってもらわないと……)
怯えるサヤカを利用していることに罪悪感を抱きながらも、メグルは先に歩を進めた。
旧校舎一階は、保健室と一年生の教室――。
いまは使われてない各教室は、体育用具や運動会で使う道具置き場になっていた。
さらに廊下を進むと、突き当たりの昇降口に、うずたかく積まれた細い丸太の山が見えてきた。
「この木材は何に使うんだろう? ずいぶん沢山あるけど……」
「そっか。メグルくんは来たばかりだから聞いてないのね。満月の夜に、校庭にやぐらを組んで『月見祭り』が開催されるのよ。そのときに使うんじゃないかな」
よく見ると、やぐらの上で叩くのであろう大きな和太鼓や、沢山の畳まれた提灯も置かれている。
「満月の夜って、明日だよね……」
メグルは前髪を指に絡ませた。
(越界門が開く日に行なわれる月見祭り。当然教師たちも参加するはず。その中の誰かが、祭りのにぎわいに紛れて旧校舎に忍び込み、越界門を開くつもりなのだろうか?)
「月見祭りって、何時に始まるの?」
メグルは魔鬼が紛れ込んでいるであろう教師たちの目を盗み、修復ができないよう祭りの直前になってから、越界門である旧校舎の大鏡を破壊するつもりだった。
「満月が昇る夕方ぐらいに集まって、夜の九時頃には終わるんじゃないかな。それでも親が同伴していなくちゃいけないの。わたしには関係ないけど」
「なんで? サヤカは行かないの?」
「浴衣着てやぐらのまわりを輪になって踊るのよ。なんか子どもっぽいじゃない」
そう言うとサヤカはすたすたと先を歩いて、突き当たりの階段を上がっていってしまった。
(子どものように怯えたと思ったら、妙に大人びた態度をとってみたり……。小学六年生の女子って、難しい年頃なんだなぁ)
メグルは首をかしげつつ、急いでサヤカのあとを追った。
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