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第6章 旧校舎の大鏡
01
しおりを挟む給食を胃の中に押し込んだ男子たちが、ボールを抱え大声で仲間を募りながら我先にと教室から走り去っていく。
女子たちは二つ三つのグループに固まり、キメ顔の女の子とピンクの文字で埋め尽くされたファッション誌を広げて、同世代の読者モデルに喚声を上げていた。
そんな中、メグルは教頭が話していた旧校舎の大鏡を確認するため、ひとり教室をあとにした。
「メグルくん、ひとりでどこ行くのかなぁ?」
教室を出てすぐ、うしろから声をかけてきたのはサヤカだった。
サヤカはよく 「何をしているの?」 「どこへ行くの?」とメグルに声をかけてくる。同じ転校生としてメグルのことを気遣ってくれているのだろう。メグルはそんな心遣いができるサヤカに、とても感心していた。
(さすが試練星が残り一個だけのことはある。きっと彼女は、今回の人生で人間界を卒業だな……)
「ちょっと校内を散策しようかと思って。まだ、どこに何があるのかわかってないし」
「なら、わたしが案内してあげる!」
返事も聞かぬまま、メグルの手を取り走り出すサヤカ。
やわらかなサヤカの手の感触に頬を赤らめつつも、メグルは断ることもできずに一緒に走った。
ふたりは新校舎の階段を駆け上がり、上の階から順に、理科室、音楽室、パソコン室、視聴覚室、図書室、家庭科室、図画工作室、職員室と、次々に見てまわった。
「一階はいいよね? メグルくん、保健室には行ったことあるし、校務員室もお父さんの仕事部屋だから知ってるでしょ?」
「うん。……でも、もう一度、保健室を見ておきたいな」
サヤカは一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔でうなづいた。
ふたりで階段を下る。昼休みはどこも騒がしくて、そこらじゅうから笑い声が聞こえてくる。
追いかけっこをしている生徒が、はしゃぎながらメグルの横を走り抜けた。その楽しそうな笑顔を見ると、メグルの心はぎゅっと痛んだ。
(トモルはどんな気持ちで昼休みを過ごしているのだろう? 笑い声に包まれた校内でひとり、どんな思いで本を読んで……)
保健室が近づくにつれメグルの歩みは速くなった。ついにはサヤカを置いて走り出し、ひとり保健室へと駆け込む。
しかし、どこを見渡してもトモルの姿は見当たらなかった。
「残念だったね。トモくんに会いたかったんでしょ?」
追いついたサヤカがメグルの背中に声をかけるも、メグルは問いかけにはこたえず、窓際の椅子に腰を掛けて居眠りをしている、深川先生に声をかけた。
「あの、原トモルがどこへ行ったか知りませんか?」
大きな口を開け、天井を仰ぎながら居眠りしていた深川先生のまぶたがゆっくりと開いて、寝ぼけ眼でメグルを捕らえる。
「ん、ああ、トモくんねぇ……。あの子は休み時間になると途端に元気になって、ふらっといなくなるんだよねぇ。どっかで遊んでるんじゃないかねぇ」
深川先生は、またゆっくりと目を閉じて、かあかあとイビキをかいて寝てしまった。
サヤカにそっと手を引かれ、ふたりは保健室をあとにした。
「ねえメグルくん。トモくんはメグルくんが思ってるほど弱い子じゃないと思うよ。きっといつかは、いじめっ子たちを見返す日が来ると思うんだ。だからいまは、そっとしておいてあげようよ」
サヤカに言われて、メグルはうつむいていた顔を上げた。
「あまりトモルに関わらない方がいいって……、そういうこと?」
サヤカがにっこりと微笑む。
「そーゆーこと!」
(前世で自分の息子だったからと、ぼくはトモルを心配し過ぎなのかも知れない。ここへ来た目的は魔鬼の作った越界門を潰すため。それを忘れないようにしないと……)
メグルはつい熱くなってしまった自分を反省し、頭の切り替えに努めた。
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