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第4章 トモル

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 モグラが名残なごり惜しそうに教室から出て行くと、ようやく今日の授業が始まった。

 桜子先生のとろけるような声が教室内をゆったりと漂うなか、小学六年生の授業に何の関心も得られないメグルは、眠気を紛らわすために何気なく取り出した『星見鏡ほしみきょう』で、まわりの生徒の観察を始めた。

 ぼんやりとした太めの男子の頭上に『試練星』七個、『成就星』一個が浮いている。そのとなりの眼鏡を掛けた如何いかにも真面目そうな女子の頭上には『試練星』五個、『成就星』二個が浮かんでいた。見る限りどの生徒も、星を十二個以下に減らしている。

 「ふむふむ、みんな何度目かの人間界か。しかもこの年齢としで成就星が光っているんだから、凡人としてはまあまあの育成ぶりかな……」

 ひとりつぶやきながら、さらに教室のうしろへ目をやったとき、ついにメグルは発見する。一番後ろの席で、まわりの生徒にちょっかいを出している、小柄で落ち着きのない男子を見たときである。

 「出た! 『試練星』十二個に『成就星』ゼロ! あいつ、きっと人間界初めてだぞ。あんなにはしゃいじゃってまあ……。わかりやすいったらないな!」

 いまにも吹き出しそうな笑いを必死にこらえているとき、メグルの肩を誰かが小さく叩いた。

 ふり向くと、そこには真っ白なワンピースを着た女の子が、窓から入る涼やかな風に長い髪をなびかせていた。左手にはめた赤いベルトの腕時計が日差しを受けてきらりと光る。メグルは少女のあまりの美しさに、しばし見とれてしまった。

 それほどまでにメグルが目を奪われたには理由がある。女の子の頭上には、たった一個の試練星しか浮かんでいなかったのだ。

 まさに才色兼備さいしょくけんび。さきほどの騒がしい『おのぼりさん』とは、雲泥うんでいの差なのだ。


 「教科書まだないんでしょ? 一緒に見ましょう」

 女の子はそう言うと、机をよせて教科書を見せてくれた。

 「わたし、蓮池はすいけ 咲華さやかっていうの。サヤカって呼んでね」

 「や、やあ。これはどうも、ご丁寧に……」

 すっかり見とれていたメグルは、あわてて内ポケットから管理人の名刺を取り出した。
 が、はっと我に返ってすぐにまたしまった。

 (いかんいかん。どうも名刺を出すくせが抜けないな。ぼくの前世って営業マンだったかな……)

 何気なにげなしにメグルは前世の職業を思い出そうとした。が、どうしたことか何も思い出せない。

 (あれ、おかしいな。転生したわけでもないのに、前世の記憶がずいぶん薄れている)

 メグルは必死になって頭をひねるが、頭の中は白い霧がかかったように、何の景色も浮かんでこなかった。

 焦ったメグルの額に、玉のような汗が浮かぶ。


 「大丈夫? 気分悪そうよ」

 サヤカが心配して声をかけるが、気が動転しているメグルは返事もできなかった。

 「あらまあ、メグルくん大丈夫? 転校初日で緊張しちゃったのかしらん。サヤカちゃん、保健室に連れていってあげてぇ」

 桜子先生にうながされ、メグルはサヤカに連れられ教室を後にした。


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