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第3章 奇異な転校生
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しおりを挟む(魔鬼はこいつだ! 間違いない!)
まるでメデゥーサに睨まれたかのように直立不動のまま固まっているふたりに、男が静かに声をかける。
「教頭の神崎です。どうぞかけて」
低い声だった。
ふたりが油の切れたゼンマイ式ロボットのようなぎこちない動作でソファーに座るのを見届けてから、教頭もゆっくりと腰を降ろした。
「初日から遅刻とはね。まあ、以後気を付けてください」
「はいっ!」
裏返ったふたりの返事は、タイミングまでぴたりと合っていた。
「急な転校生はたまにいますが……。こちらには転勤かなにかで?」
教頭がテーブルの上の書類に視線を落としたまま訊ねる。
恐怖で硬直していたモグラはメグルに肘で突かれたとたん、喉に詰まったアメ玉を吐き出すようにこたえた。
「えっ、栄転ですっ!」
「ほう……」
顔を上げた教頭の鋭い視線が、ぼろぼろのモグラの服を頭の上からつま先まで、舐めるように這う。
「結構ですな。こうも景気が悪いと、どこも大変でしょうに……」
その鋭い視線にわずかな嘲笑の色を浮かべながら、再び書類に視線を落とした。
「六道輪廻……。これは輪廻転生を礎とする死生観のひとつだ。……ふむ、輪廻と読ませるとは、なかなか興味深い」
メグルはいかにも子どもらしい無邪気な笑顔を作ってこたえた。
「はい! 初対面の人によく言われます。きみのキラキラネームは読み方に無理が……」
「結構」
メグルの返事を最後まで聞くことなく、教頭は席を立った。
「早速、今日から授業に出てもらいます。担任に案内させましょう」
そのまま教頭が部屋から去るのをじっと見届けてから、モグラが押し殺した声で叫んだ。
「やつだ! やつに間違いない! あの眼光は人間のものじゃねぇ! おいらたちを疑い深く、舐め回すように見ていたぜ!」
メグルがドアを見つめたまま、前髪を指に絡ませる。
(確かに教頭の鋭い目つきは、ぼくたちの頭上にある『星』が本物かどうかを確認しているようにも見えたが……)
ふとメグルは、モグラの頭へ視線を移した。
「だいたいお前の頭に『試練星』三個は不自然すぎたんだ。もう五、六個足しとけば良かったな」
モグラは 「ああそうね。えっ、三個?」と自分の頭を見上げた。
しかし、そんなことはどうでもいいとばかりに、そそくさと帽子とステッキを手に取り、メグルの肩をばしんと叩くと、
「おいらの仕事はここまでだ。あとはまかせたぜ!」と、足早に部屋から出て行こうとした。
そのとき――。
「きゃあ、びっくりしたぁ……。あら、お父さま、お帰りですかぁ?」
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