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第2章 モグラのねぐら
03
しおりを挟むモグラのあとについて河川敷の土手を街側へ下る。鉄橋の下でようやく強烈な日差しから逃れたメグルは、だらりとその場にへたり込んだ。日中を通して日陰になっているアスファルトの地面は、ひんやりとして気持ちがいい。
一方モグラは橋桁を背に立ち、きょろきょろと注意深く辺りを窺っていた。
「………?」
訝しげに見つめるメグル。
すると突然、モグラの姿が消えた。
唖然と駈け寄るメグルの足もとで、マンホールの蓋ががらりと開く。
「何してんだい、早く来な。ちゃんと蓋閉めてこいよ」
ひょっこりと穴から顔を出したその姿は、まさにモグラそのものだった。
(ここをねぐらにしてるのか。なるほど『菅野 土竜』とは、よく言ったものだ……)
メグルはひとり納得すると、モグラのあとに続いてマンホールの中に体を沈めた。
三メートルばかり梯子を降りると地面に足が着いた。じんめりと濡れた暗闇のなかに、かすかに水の流れる音が聞こえる。下水道トンネルのようだ。
「こっちだ」
声のする方向に目を向けると、ゆらゆらと揺れる明かりのなかに不気味な顔が浮かんでいた。ライターの火を持ったモグラが、少し先の曲がり角から顔を出していたのだ。
湿った空気がまとわりつくトンネル内は、地上の灼熱地獄とは無縁だが、キッチンの排水口に鼻先を突っ込んだような異臭が漂うこの空間に長居したいとは思えない。メグルは鼻をつまみながら、モグラの背中を足早に追いかけた。
いくつかの角を右へ左へ曲がりつつ五分ほど歩くと、コンクリートの壁で囲まれた十二畳ほどの空間にでた。そこには古めかしい西洋風のテーブルとソファー、大きな壁掛けテレビ、天蓋の付いたベッドまで置かれている。しかしよく見ると、どれも傷だらけの中古品。
その奥にはガラクタのような部品や機材が山積みにされていて、見慣れない工作機械や作業台まで置かれていた。反対側には、これまた中古と思しきパソコンが数台並び、モニタの青白い光が部屋全体をうっすらと照らしている。
「捨てられたパソコンから部品を調達した寄せ集めだが、OSは最新だぜ」
モグラはサングラスを外して、シルクハットの上に掛け直すと、軽快な音をたててパソコンのキーボードを叩きだした。するとモニタに四分割されたカメラ映像が現れ、それぞれにマンホールの蓋が映し出される。
「防犯カメラだ。越界者はここまで用心深くやらなきゃダメよ」
モグラが得意げに、ぴんっと指で口髭を弾いた。よく見ると、さきほど入ってきたマンホールも映っている。
「すごいな。全部ひとりでやったのか」
「いんや。パソコンの知識も機材を集められたのも、あの川っぺりに住んでいるおっさんたちのおかげさ」
「あの段ボールハウスの?」
「バカにすんなよ。ああ見えて昔は世界を相手に取引きしてた工場の職人や、名立たる会社の技術者だったんだ。知識も経験も一流だぜ」
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