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第2章 モグラのねぐら
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しおりを挟むぎらぎらと鬱陶しい眼差しの大陽が窓からのぞき込んでいる。メグルが蒸し風呂のごとく暑苦しい部屋で目を覚ましたのは、もう昼をずいぶん過ぎた頃だった。
寝ぼけ眼でカバンをまさぐり、中から『魔捕瓶』を三つ取り出すと、ひびの入ったちゃぶ台の上に一列に並べた。
瓶の中には、いままでに捕らえた越界者がそれぞれ入っている。寝ている者、鋭くこちらを睨みつける者もいれば、瓶を揺らすほど大暴れしている者もいた。
寝ている者が入った『魔捕瓶』をこつんと指で倒す。ごろごろと転がる瓶の中でリスのようにあわてて走りだす越界者の姿をぼんやりと眺めながら、メグルは大きなあくびをした。
「おはようさん。目は覚めたかい?」
取って付けたような爽やかな笑顔で挨拶すると、メグルはその瓶を列に戻し、 「おほん」とひとつ咳払いをしてから尊大な態度で話し始めた。
「越界者諸君! 煉獄長の許可なしに人間界へ入界することは、十層界の掟を破る重大な罪であります。よってきみたちは『魅惑の地獄界 罰めぐりツアー』の刑に処します!」
越界者たちを入れた瓶が、一斉に音をたてて震えだした。彼らのほとんどは、人間界のすぐ下にある『修羅界』や『畜生界』から来た者たちである。十層界の最下層『地獄界』は、彼らからしても想像を絶するほどに怖ろしい世界なのだ。
「しかし、わたしはとても寛容なのです。きみたちが人間界へやって来た入口を教えてくれれば、助けてやらないこともなくはありません」
震えるばかりだった越界者たちが、にわかに色めき立つ。瓶越しに一生懸命、身ぶり手ぶりで会話を始めたかと思うと、その中のひとりがメグルに向かって手を振り、きぃきぃと喚きだした。
あまりに小さな声なので、何を言っているのか聞き取れなかったメグルは、その瓶を持ち上げ、自分の耳に押し当てた。
「条件がある。人間界への入口を管理人に教えたことがバレれば、どっちにしろおれたちは魔鬼に八つ裂きにされて『地獄界』へ堕とされる。魔界の勢力が及んでいない『天界』以上での生活を保障してくれれば、教えてやらなくもない」
「バカ言うなっ!」メグルは憤慨した。
「超エリートのぼくでさえ、こんなつまらない仕事で『天界』行きの足止めを喰らってるっていうのに!」
交渉決裂とばかりに『魔捕瓶』をちゃぶ台の上に叩き置くと、メグルは大の字に寝転がって、ポケットからくしゃくしゃの名刺を取り出した。
「仕方がない。気が向かないが、やつを頼ってみるか……」
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