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第1章 死と再生

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 「ぎゃああああああぁぁぁ……」


 男は真っ暗な穴の中を、真っ逆さまに落ちていった。
 そのあとを煉獄長の声が追ってくる。

 「きみの仕事は、魔界側の世界からやって来る越界者えっかいしゃの確保じゃ。勤め先はきみが人間のときに過ごした街。そこでのきみの名前は『六道リクドウ 輪廻メグル』。詳しい仕事内容は前任者に聞きたまえ。がんばれよおおぉぉぉ……」


 バキッ!


 背中に激痛が走って目を覚ます。
 起きがけの焦点しょうてんの合わない視界に、ぼんやりと古めかしい和室の天井が映った。ぶら下がった電灯の明かりは消えている。
 背中の痛みをこらえつつなんとか体を起こして、薄暗い部屋を見まわした。

 「間違いない。ここは人間界だ……。またぼくは、人間界に来てしまったんだ……」

 と、そのとき、視界の端に人影が映った。ふり向けば、驚いた顔でこちらを見つめる子どもがいる。小学生ぐらいの男の子だ。

 「お、驚かせて、ごめん……」

 そこまで言って気が付いた。男は古い化粧台の鏡に話しかけていた。

 立ち上がり、くるりと回って笑顔をつくる。
 寸分違すんぶんたがわぬタイミングで、引きつった笑顔が鏡に映った。

 「どういう……こと……?」

 ふたつの小さな手のひらを見つめたとき、足もとでまっぷたつに割れているちゃぶ台の上に手紙を見つけた。
 薄暗い部屋のなか明かりをつけるのも忘れて、新聞の折込み広告の裏に走り書きされた、その手紙を読んだ。


 拝啓 後任者様
  再び人間界へようこそ。御愁傷ごしゅうしょう様です。
  運悪く管理人に選ばれたぼくも、ようやく一年の勤めを終え、
  これから煉獄に戻って『天界』へ転生です。
  超楽しみ!
  この日を指折り数えて、どれだけ待ったことか。
  あなたを待ちきれずに旅立ったことをお許しください。
  それにしても人間界は最悪です。
  越界者えっかいしゃ、多すぎです。
  せいぜい、がんばってください。         敬具


  元人間界管理局日本支部担当管理人 四聖シショウ ススム


  追伸『管理人七つ道具』は、ちゃぶ台の下にまとめて置いておきます。


 少年になった男は、しばし呆然ぼうぜんとその手紙を見つめていた。
 御愁傷ごしゅうしょう様? 運悪く……?
 理解できない言葉が頭の中を駆け巡る。
 壊れたちゃぶ台を足でどけると、子どもの玩具おもちゃのようなガラクタがいくつも出てきた。


 「これが超エリートの仕事……。だまされたあああぁ!」


 いまから一ヶ月前の出来事である。
 メグルはちゃぶ台のひびを指でなぞりながら、また深い溜め息をついた。

 窓の外はもう、うっすらと白み始めていた。


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