二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第15話 煉獄長

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 メグルの背中から吹き出す黒い霧が完全に止んだとき、咳き込みながら手術台のモグラが体を起こした。
 床に倒れたメグルに気がつき、抱きかかえる。


 「いったい何が起こったんだよメグル……。まさか、お前さんを倒しちまったのか、おいら……」


 モグラの言葉が終わるや否や、メグルの眉がぴくりと上がる。
 尋常ならざる自尊心の強さが、メグルのまぶたを押し開けた。


 「舐めるなモグラ……。お前なんかに、やられるものか……」


 虚ろな視線を彷徨さまよわせながら続ける。


 「安心しろ……。誘拐された子どもはすべて魔鬼になった……。ある意味、人間に誘拐されるよりマシだ。取り敢えず、まだ生きているからな……」


 眉間に深いシワを刻みながら、なんとか自分の力で体を起こす。


 「いいかモグラ……。これまでに誘拐した子どもの情報を金山から問いただすんだ。そして子どもたちの体を魔鬼から奪い返してくれ……」


 「奪い返してくれって……お前さんはどうする気なんだよ……」


 立ち上がろうとするメグルの体を支えながら、モグラが訊ねた。


 「……ぼくはこの越界門から、魔界へ越界する」


 「なに言ってやがるんだよ! お前さん、気でも違ったのか!」


 メグルがわずかに笑みを浮かべる。


 「仮死状態にする注射で体のダメージはでかいが、どうやら頭は正常だ……。まえから一度、行ってみたかったんだよ……」


 「ばかやろう、観光に行くんじゃねえんだ! 生きて帰れねぇぞ!」


 モグラに肩を揺さぶられて、メグルの頭ががくがくと前後に揺れる。


 「薄々感づいていたんだ……。六道にはそれぞれの世界に、相応しい霊格の魂が振り分けられている。ならば本来、魂の移動は頻繁に起こらないはずだ。
 飛び級で昇界しているぼくは、過去に一度、地獄界へ堕ちている……。
 もしくは、六道の魂ですらなかったのかも……」


 「まさかお前さん……以前は魔鬼だったなんて……」


 メグルは何もこたえず、普段見せないような笑顔を向けて、モグラの肩を力強く掴んだ。



 「モグラ、ぼくが行ったらこの鏡を壊せ。いつまでも人間界にいてくれよ、またいつか戻ってくるからな!」


 モグラの腕をほどいて、メグルは越界門に身を投げた。

 その姿が、越界門の漆黒の闇に吸い込まれていく。


 「ばかやろう! いつもひとりで突っ走りやがって! おいら、お前さんについて行くって、心に誓ったのによう……」


 むせび泣くモグラの声が、十三階の廊下を静かに響く。


 空を覆っていた黒雲はいつのまにか姿を消し、白銀色の満月がやさしく廃病院を照らしていた。


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