66 / 70
第15話 煉獄長
03
しおりを挟むメグルの背中から吹き出す黒い霧が完全に止んだとき、咳き込みながら手術台のモグラが体を起こした。
床に倒れたメグルに気がつき、抱きかかえる。
「いったい何が起こったんだよメグル……。まさか、お前さんを倒しちまったのか、おいら……」
モグラの言葉が終わるや否や、メグルの眉がぴくりと上がる。
尋常ならざる自尊心の強さが、メグルの瞼を押し開けた。
「舐めるなモグラ……。お前なんかに、やられるものか……」
虚ろな視線を彷徨わせながら続ける。
「安心しろ……。誘拐された子どもはすべて魔鬼になった……。ある意味、人間に誘拐されるよりマシだ。取り敢えず、まだ生きているからな……」
眉間に深いシワを刻みながら、なんとか自分の力で体を起こす。
「いいかモグラ……。これまでに誘拐した子どもの情報を金山から問いただすんだ。そして子どもたちの体を魔鬼から奪い返してくれ……」
「奪い返してくれって……お前さんはどうする気なんだよ……」
立ち上がろうとするメグルの体を支えながら、モグラが訊ねた。
「……ぼくはこの越界門から、魔界へ越界する」
「なに言ってやがるんだよ! お前さん、気でも違ったのか!」
メグルがわずかに笑みを浮かべる。
「仮死状態にする注射で体のダメージはでかいが、どうやら頭は正常だ……。まえから一度、行ってみたかったんだよ……」
「ばかやろう、観光に行くんじゃねえんだ! 生きて帰れねぇぞ!」
モグラに肩を揺さぶられて、メグルの頭ががくがくと前後に揺れる。
「薄々感づいていたんだ……。六道にはそれぞれの世界に、相応しい霊格の魂が振り分けられている。ならば本来、魂の移動は頻繁に起こらないはずだ。
飛び級で昇界しているぼくは、過去に一度、地獄界へ堕ちている……。
もしくは、六道の魂ですらなかったのかも……」
「まさかお前さん……以前は魔鬼だったなんて……」
メグルは何もこたえず、普段見せないような笑顔を向けて、モグラの肩を力強く掴んだ。
「モグラ、ぼくが行ったらこの鏡を壊せ。いつまでも人間界にいてくれよ、またいつか戻ってくるからな!」
モグラの腕をほどいて、メグルは越界門に身を投げた。
その姿が、越界門の漆黒の闇に吸い込まれていく。
「ばかやろう! いつもひとりで突っ走りやがって! おいら、お前さんについて行くって、心に誓ったのによう……」
むせび泣くモグラの声が、十三階の廊下を静かに響く。
空を覆っていた黒雲はいつのまにか姿を消し、白銀色の満月がやさしく廃病院を照らしていた。
8
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
視える棺2 ── もう一つの扉
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。
影がずれる。
自分ではない"もう一人"が存在する。
そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。
前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。
だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。
"棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。
彼らは、"もう一つの扉"を探している。
影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者——
すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。
そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。
"視える棺"とは何だったのか?
視えてしまった者の運命とは?
この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。
ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿
加来 史吾兎
ホラー
K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。
フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。
華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。
そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。
そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。
果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。
輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル
ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★
巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか?
死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。
終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。
壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。
相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。
軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

りんこにあったちょっと怖い話☆
更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】
ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡
田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。
あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。
おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。
ルッキズムデスゲーム
はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』
とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。
知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。
長野県……の■■■■村について
白鳥ましろ
ホラー
この作品はモキュメンタリーです。
■■■の物語です。
滝沢凪の物語です。
黒宮みさきの物語です。
とある友人の物語です。
私の物語です。
貴方の物語でもあります。
貴方は誰が『悪人』だと思いますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる