二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第15話 煉獄長

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 窓の外に広がる黒い森が強風に煽られてざわざわと騒ぎ、空を覆う黒雲から降り出した大粒の雨が、割れた窓から横殴りに吹き込んでいる。

 闇に沈んだ廊下に佇むメグルが、紅く光る瞳で、じっとこちらを睨みつけていた。


 「なあ、メグルよう……。お前さん、完全に意識を奪われちまってるのか? 返事しろよ……」


 シルクハットのつばと逆手に持ったステッキのあいだにメグルを捉えながら、モグラはじりじりと距離を詰めた。

 ステッキを持つ手に汗がにじむ。


 「忌々しい体だが復讐するには丁度いい。存分に使い潰してやる……」

 メグルの口から発せられたその声は、妖しく艶やかな女のものだった。


 「おとなしくその体を返しな! そのジャジャ馬はなぁ、おまえら魔鬼が乗りこなせるほど柔じゃねぇぞ!」

 メグルが自分の手のひらを見つめ、指を動かした。


 「乗りこなしてやるさ。こいつを愛する者たちを、この爪で切り刻んでやる……。六道輪廻(リクドウメグル)の絶望する顔を見れないのが残念だ……」

 「メグルを知ってるのか? お前さん、いったい何者だ?」 

 「……お前も知っているよ、菅野土竜。わたしはこいつに無限封印された魔鬼さ」


 モグラが眉を上げた。

 「二条飛鳥……! てめぇ、なんで解放されている?」


 とたんにメグルが嘲るような笑顔を見せた。

 「こいつが自ら魔捕瓶の蓋を開け、死にかけの己の体にわたしを取り込んだ……。笑える話でしょう?」

 メグルがゆっくりと近づいてきた。


 「それよりお前……。瞳の奥に何かが潜んでいるね……」

 妖しく光る紅い瞳で、モグラの瞳を射るように見つめた。

 そして静かに笑う。


 「ふふ……。盗み見とは趣味が悪いな、閻魔羅闍(エンマ ラジャ)」


 意味不明な言動に眉をひそめたモグラは、直後に強烈な睡魔に襲われた。
 耐えきれずにまぶたを閉じたそのあと、再びゆるりと目を開ける。


 「ばれたかね……」

 その瞳が銀色に輝いていた。

 「この体は人間界を見るのに都合がいいのでな。なんせ三〇〇年も居座っておるベテラン越界者だ。たまに使わせてもらっておる」


 メグルは顎をさすりながら視線を彷徨さまよわせると、やがて合点がいったようにモグラに焦点を合わせた。


 「そうか、おまえが黒幕だったのか……。六道を管理する煉獄長れんごくちょうが、管理人に魔鬼を襲わせ何を企む?」


 「企んどるのはきみらの方じゃろう。近頃、託された役目以上に人間界を荒らしているようじゃの? なので、ちょいとほれ、忠告じゃよ……」


 「我ら同志の記憶を奪い、たぶらかし、鉄砲玉として使い捨てるか。相変わらず無慈悲なやつめ」


 メグルの言葉を受けて、モグラが笑みを浮かべる。

 「六道輪廻リウドウメグルのことを言うとるのかね? 混沌を望む魔鬼がおかしなことを……。 
 使えるものは己の手足のごとく躊躇ちゅうちょなく使う。すべてはひとつ、わしも如来にょらいの一部に過ぎん。みな繋がって……」

 モグラの言葉が終わらぬうちに、メグルの横の割れた窓から、猛烈な勢いで大量の水が流れ込んだ。

 メグルは壁に叩きつけられ、激流とともに廊下を流される。

 そのなかで体勢を直したメグルは、即座にモグラの姿を捉えようと視線を走らせた。

 廊下を流れる激流は一本の水柱となり、割れた窓から外へ飛び出していく。


 その姿はまさに空を舞う水龍だった。


 「……相変わらず邪智深じゃちぶかいやつ。不意打ちも躊躇ちゅうちょなくやるか」





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