二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
61 / 70
第14話 魔鬼

02

しおりを挟む
 
「やっぱり魔鬼なんて、たいしたもんじゃないな……。
 結局お前らは人間を、いや六道を生きるすべての魂の本質を何も理解してやしない」

 息も絶え絶えにメグルが続ける。

「ぼくは子ども食堂で魂の繋がりを見た……。
 越界者、坂田佐和子の愛情が……彼女の作ったあたたかい料理が『つながり』に訪れる全ての人々の心を繋げ、貧困ゆえの不遇を吹き飛ばす光景を目の当たりにしたんだっ!」

 如月紬が笑い飛ばす。

 「そんな彼女を心から支援していた金山も、簡単に金の力で人身売買の話にのった! 坂田佐和子も『つながり』を維持するためなら簡単に金山に尻尾を振った!
 すべては、金、金、金!
 魔鬼が創造した金というパワーに抗えやしないのだっ!」


 身動きが取れないはずのメグルがじりじりと体を起こし、如月紬に手を伸ばす。
 驚いた如月紬は思わず手術台から飛び降りた。

 「彼女から子ども食堂を奪おうとした、貴様はあああっ……!」

 メグルの意識が遠くなる。

 手術台から落ち、如月紬の足元に前のめりに倒れた。


 「……無理するな管理人、お前はすでに死にかけているのだ」

 如月紬は床に転がるメグルを一瞥いちべつすると、手術室の壁にかけられたシーツを外した。
 そこに現れたのは、壁一面に貼られた巨大な鏡――。

 「満月の今夜、ここで仮死状態になった子どもの体を魔鬼が奪う。すでに一年で十五人もの魔鬼がここで人間の体を得た。今月は雨宮香澄が新たな魔鬼になるはずだった」

 紬がメグルの肩を掴んで仰向けにした。

 「だが面白いことを思いついたぞ管理人。貴様の体を魔鬼が奪ったらどうなるか? 試してみようじゃないか」

 如月紬がメスを手に取り、鏡の前に立った。
 自らの左手を切り裂き、血だらけの手で鏡に大きな六芒星を描く。


 「開け越界門! 出でよ我が同志! 満月の今夜、生贄に捧げたこやつの体を奪い取れ!」


 手術台を照らしていたライトが瞬くように明滅する。
 手術室を映していた鏡が、一瞬の闇に紛れて黒い霧に覆い尽くされる。

 やがて黒い霧は、描かれた六芒星を中心に猛烈な勢いで渦を巻いた。

 「今宵もついにこの時がきた! お前の体を我が物にしようと、たくさんの同志がやってくるぞ!」

 瞬間、鏡に描かれた六芒星が黒い渦に吸い込まれて消えた。
 越界門が、ついにその大きな口を開けたのだ。

 手術室に轟々と唸りをあげて風が渦巻く。
 そのなかで漆黒の闇へと続く越界門をのぞきながら、狂喜する如月紬。


 「待ってくれ……」

 その小さな背中に、焦点の定まらない視線を彷徨さまよわせながらメグルが話しかけた。

 「ぼくの体を魔鬼に奪わせるのを許そう……。そのかわり、ひとつ頼みを訊いてくれ……」

 足元に転がる気息奄々きそくえんえんのメグルの提案に、如月紬が声を上げて笑った。


 「管理人が魔鬼と契約するのか? ……面白い、訊いてやろう」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★ 巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか? 死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。 終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。 壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。 相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。 軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

黄昏時のジャバウォック

鳥菊
ホラー
その正体を、突き止める術はなかった。 ※本作は小説家になろう様でも投稿しております。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

処理中です...