二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第14話 魔鬼

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「やっぱり魔鬼なんて、たいしたもんじゃないな……。
 結局お前らは人間を、いや六道を生きるすべての魂の本質を何も理解してやしない」

 息も絶え絶えにメグルが続ける。

「ぼくは子ども食堂で魂の繋がりを見た……。
 越界者、坂田佐和子の愛情が……彼女の作ったあたたかい料理が『つながり』に訪れる全ての人々の心を繋げ、貧困ゆえの不遇を吹き飛ばす光景を目の当たりにしたんだっ!」

 如月紬が笑い飛ばす。

 「そんな彼女を心から支援していた金山も、簡単に金の力で人身売買の話にのった! 坂田佐和子も『つながり』を維持するためなら簡単に金山に尻尾を振った!
 すべては、金、金、金!
 魔鬼が創造した金というパワーに抗えやしないのだっ!」


 身動きが取れないはずのメグルがじりじりと体を起こし、如月紬に手を伸ばす。
 驚いた如月紬は思わず手術台から飛び降りた。

 「彼女から子ども食堂を奪おうとした、貴様はあああっ……!」

 メグルの意識が遠くなる。

 手術台から落ち、如月紬の足元に前のめりに倒れた。


 「……無理するな管理人、お前はすでに死にかけているのだ」

 如月紬は床に転がるメグルを一瞥いちべつすると、手術室の壁にかけられたシーツを外した。
 そこに現れたのは、壁一面に貼られた巨大な鏡――。

 「満月の今夜、ここで仮死状態になった子どもの体を魔鬼が奪う。すでに一年で十五人もの魔鬼がここで人間の体を得た。今月は雨宮香澄が新たな魔鬼になるはずだった」

 紬がメグルの肩を掴んで仰向けにした。

 「だが面白いことを思いついたぞ管理人。貴様の体を魔鬼が奪ったらどうなるか? 試してみようじゃないか」

 如月紬がメスを手に取り、鏡の前に立った。
 自らの左手を切り裂き、血だらけの手で鏡に大きな六芒星を描く。


 「開け越界門! 出でよ我が同志! 満月の今夜、生贄に捧げたこやつの体を奪い取れ!」


 手術台を照らしていたライトが瞬くように明滅する。
 手術室を映していた鏡が、一瞬の闇に紛れて黒い霧に覆い尽くされる。

 やがて黒い霧は、描かれた六芒星を中心に猛烈な勢いで渦を巻いた。

 「今宵もついにこの時がきた! お前の体を我が物にしようと、たくさんの同志がやってくるぞ!」

 瞬間、鏡に描かれた六芒星が黒い渦に吸い込まれて消えた。
 越界門が、ついにその大きな口を開けたのだ。

 手術室に轟々と唸りをあげて風が渦巻く。
 そのなかで漆黒の闇へと続く越界門をのぞきながら、狂喜する如月紬。


 「待ってくれ……」

 その小さな背中に、焦点の定まらない視線を彷徨さまよわせながらメグルが話しかけた。

 「ぼくの体を魔鬼に奪わせるのを許そう……。そのかわり、ひとつ頼みを訊いてくれ……」

 足元に転がる気息奄々きそくえんえんのメグルの提案に、如月紬が声を上げて笑った。


 「管理人が魔鬼と契約するのか? ……面白い、訊いてやろう」


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