二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第14話 魔鬼

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 モグラと雨宮香澄が廃病院内を捜索しているころ、メグルと如月紬は仮死状態にする注射をされて、それぞれ手術台の上に寝かされていた。


 「やばいな……管理人のぼくでさえ、この注射には耐えられそうにない。ここで仮死状態になったら、紬ちゃんを助けることも……」

 閉じてしまいそうなまぶたを必死に堪えながら、メグルは首を動かして、となりの手術台に視線を移した。

 しかし寝ていたはずの如月紬はいともなく体を起こし、メグルの方に顔を向けた。


 「嘘だろ……管理人のぼくでさえ、脈が弱くなっているのに……」

 さらに紬は手術台から降りて、メグルの顔をのぞき込む。

 「あ~あ、大失敗だよ。今月は香澄ねえちゃんが納品されるはずだったのに」

 「紬ちゃん……なんで動けるの? それに雨宮香澄が……誘拐されかけたことも……?」

 「うふふ……」

 如月紬が堪えきれない様子で顔を背け、静かに笑う。
 再びメグルにやわらかな笑顔を向けて口を開けたとたん、メグルの体に戦慄が走った。


 「……おれが魔鬼だよ、管理人」


 それは小学二年生の女の子が発したとは思えない、低くしわがれた怖ろしい声だった。

 「だまされちゃったね?」

 小学二年生の女の子の声に戻った如月紬が続ける。

 「内臓を取ったり、解体したりなんかしないよ。今までに誘拐した子どもたちにもそんな野蛮なことしてないもん。ここにある手術道具やたくさんのメスは、金山を騙すために置いてあるだけ。使ったことないよ」

 「どうして如月紬の体に、魔鬼が……?」

 ころころと笑いながら、如月紬がメグルの手術台に寄りかかった。

 「去年の冬、真夜中のベランダで凍え死にかけてたから、とりあえずもらったの。まえの体は警察に目をつけられちゃってさ……。使っていた越界者が『修羅しゅら界』のやつで、派手にやりすぎたんだよ」

 かたわらに並んだメスを面白そうに眺めると、選び出した一本を手に取りライトにかざした。
 鋭く反射した光がメグルの目に飛び込んでくる。

 「今度はバレないよう、しばらくは如月紬の魂に主導権を任せていたら、子ども食堂で人間の世話なんかやいてる越界者を見つけちゃってさぁ……。
 面白そうだからスポンサーの金山にメールを送って大金を振り込んだら、喜んで人身売買に協力してくれたんだぁ!」

 ふたたびメグルの顔をのぞき込み、低く嗄れた声で続けた。


 「坂田佐和子を脅迫しろ。『つながり』を続けたいなら、最低でも毎月ひとり、子どもを納品しろってな……」


 そう言うなり、握ったメスを振り下ろした。
 身動きの取れないメグルの腕に突き刺さる。


 「直接、金山……人間を利用したな……。十層界じっそうかいの法を破る……重大な契約違反だ……」


 如月紬はメグルの手術台に飛び乗ると、低く嗄れた声で説明を始めた。

 「教えてやろう、未熟な管理人。金というのは、人間を操るために我ら魔鬼が作り出したルールなのだ。金という何の価値もないものに、あたかも価値があるように信じこませると、人間は勝手に金を『力』と捉え、より沢山の力を得ようと競争して金を求める。
 実際は価値のないものを与えて人間を操っているので、如来にょらいとの契約違反にならない。不平等かつ不完全な契約の穴を突いた、賢聖なる我ら魔鬼の智慧なのだ」

 動かないメグルの体の上にまたがり、蔑むような笑みを見せた。

 「実際どうだ、この世は金に支配され、我ら魔鬼の思う壺だ。お前も子ども食堂に通う人々の現状を見ただろう? 金という力を持たぬ貧困が何をもたらすか? 満足な教育も、人並みの生活も、日々の食事にさえ有りつけずに心が荒んでいく。この体の持ち主も貧困のなかに生まれ、幼くして死を迎えた」

 如月紬が立ち上がり、両手をひろげた。

 「金という力を生み出した我ら魔鬼は、もはや人間界を支配しているも同義! あとはすべての人間どもの魂を堕界だかいさせ、人間界ごと魔界の勢力として収めるのみだ!」


 起こしていた首を戻し、メグルが天井を仰ぎながら静かに笑う。

 不可解なメグルの態度に、如月紬が眉をひそめる。


 「やっぱり魔鬼なんて、たいしたもんじゃないな……」



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