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第13話 確信にも近い信頼感
05
しおりを挟む「ちくしょう、すっかり遅くなっちまった!」
駅から遠く離れた田舎道にある、もう使われていない錆びついたバス停の前でモグラが自転車を止めた。
「擬星玉検索プログラムをスマホ用に組み直すのは余裕だったが、肝心のスマホを手に入れるのに手こずっちまった……」
後ろの荷台から降りた雨宮香澄が見上げる。
「ほんとにここなの?」
モグラも手にしたスマートフォンをから視線を外し、丘の上のフェンスに囲まれたその建物を見上げた。
冷たい夜気に包まれた、暗い森にそびえ立つ廃病院――。
「ああ間違いねえ。メグルの擬星玉は、この廃病院を指している!」
バス通りから丘の上につづく道は、頑丈なゲートと有刺鉄線で封鎖されている。
ふたりは白い息を吐きながら、草の生える丘の斜面を駆け上がった。
「ドリュウさん、こっち!」
雨宮香澄が廃病院を囲むフェンスの金網に、人が通れるほどの穴を見つけた。
「誰かが出入りしてるのは確かね」
金網の穴をくぐり敷地内に足を踏み入れる。
廃病院の正面入り口はベニヤ板で塞がれていたが、側面にまわると職員が出入りする裏口を見つけた。
ドアノブに蒔かれていたであろう鎖と南京錠が地面に落ちている。
「用心しろ。まだなかにいるぞ」
耳障りな音をたてるドアを慎重に開けて、闇に包まれた廃病院に足を踏み入れた。
白い息がスマホのライトに照らされる。
建物の中なのに、外以上に凍てついた空気が頰を撫でる。
ふたりは寄り添うようにして暗い廊下を進んだ。
一階受付の待合席を横切るとき、雨宮香澄がふいに足を止めた。
「……誰か来る」
とっさにスマホのライトを消し、並んだ待合席の陰に隠れた。
耳を澄ますと、確かに暗闇のなかに硬い足音が響いている。
やがて突き当たりの階段から、懐中電灯を持った人影が降りてきた。
「あのひと……」
「ああ、金山だな……。おい、待てっ!」
モグラの制止を振り切って、雨宮香澄が出て行った。
「……金山さん、こんなところで何してるの?」
金山が懐中電灯を瞬時に向ける。
光のなかに香澄の顔が浮かび上がったとたん、子どものような悲鳴をあげて金山は腰を抜かした。
「あ、ああ、雨宮香澄……っ! ば、化けて出たのか!」
雨宮香澄は、瞬時に事態を飲み込んだ。
金山はわたしが配達先で死んだと思い込んでいる……。
「そうよ……この世に未練があって、成仏できないの……」
「わ、悪いのは、坂田佐和子だ! あいつが、子どもを売りとばそうって……俺を誑かしたんだっ!」
雨宮香澄がゆっくりと近づき、腰を抜かした金山を見下ろす。
「……紬ちゃんまで誘拐したよね」
「お、おれは殺してないし、まだ死んでない。手術する人間が、まだ来ていないんだ……」
「紬はどこ?」
「十三階の廊下を曲がった突き当たりにある……手術室だ」
雨宮香澄がしゃがんで、恐怖で震える金山の目のまえに手を差し出した。
手のひらに、血を滴らせる臓器がのっている。
「これが何かわかる?」
「これは……た、胆嚢……に見えるが……?」
「……あなたのよ」
金山が体を押さえて、うめき声をあげた。
顔中に脂汗をかきながら、声を絞り出す。
「う……嘘だ……そんなこと……」
香澄は朽葉色した胆嚢を床に落とし、踏み潰した。
そしてスマートフォンのレコーダー機能をオンにして、金山のまえに置く。
「幽霊にはできるのよ……。わたしが戻るまでに、今までに誘拐した子どもと、人身売買に関わった人間。そしてその経緯をすべて懺悔なさい。もしさっきみたいな嘘があれば、次は左の肺をもらう……」
うずくまる金山を置いて雨宮香澄は階段を駆け上がった。
待合席に隠れていたモグラも足を忍ばせあとを追う。
「驚いたな……あいつ魔鬼じゃなかったのか?」
雨宮香澄が振り返らずにこたえた。
「彼はただの人間。この先に比較にならない黒いオーラを感じる……。黒幕は他にいるわ」
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