二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
58 / 70
第13話 確信にも近い信頼感

04

しおりを挟む
 
「ったく、何してるんだあいつは! このままじゃ本当に解体されちゃうじゃないか~っ!」

 メグルは閉じ込められた特別個室のなかで、いつまでたっても迎えに来ないモグラにひとり苛立っていた。
 ロープで括られた体を芋虫のように動かして、ストレッチャーから派手に落ちる。

 その様子を見て、ベッドに座った如月紬がころころと笑った。

 「メグルくん、イライラしてるね。誰かと喧嘩したの?」

 「紬ちゃん、このままだとぼくらは、そのう……大変な目にあってしまうんだ。何とかしてぼくのロープをほどいてもらえないかな?」

 「うん、いいよ」

 紬がベットからひょいと降りて、メグルの背中のロープの結び目をいじり始めた。

 「どう、ほどけそう……?」
 「ちょっと待って……えいっ!」
 「うぎゃ!」

 メグルは息が詰まりそうになった。

 「紬ちゃん……きつくなってる……」

 「あはは、冗談だよ。……えいっ!」
 「かはっ……」

 さらにロープがきつく締まり、メグルは声も出なかった。



 そのとき、特別個室の引き戸が開いた。
 現れたのは、白衣を着て口にマスクをはめた金山だった。

 「そろそろ始めるぞ」

 床でぐったりしているメグルをストレッチャーに乗せ、部屋を出る。
 すると如月紬が、面白そうに後をついてきた。

 「……にげろ……にげろっ!」

 ついてくる紬になんとか声をかけようとするも、ロープで体が締めつけられて思うように声が出ない。
 何もできないまま、とうとうメグルは廊下の突き当たりにある手術室へ運ばれた。


 非常用の蓄電池を電源としたライトが手術台を明るく照らしている。
 ベッドの脇に置かれた開創器や大量のメスが鈍い光を反射している。
 そのなかで金山は注射の用意をしていた。

 「……本当にやる気か? 解体手術なんかしたら……契約違反だぞ。魔鬼は直接人間に……手を出してはいけないんだ!」

 声を振り絞るメグルに、金山は注射器のシリンジを指で弾きながら眉をひそめる。

 「マキ……誰だいそれは? おれは手術の準備をして、きみたちを仮死状態にする注射を打つまでが仕事。臓器を取り出す手術は他の者がやるはずだ。この先はおれも見たことはない」

 如月紬が、メグルの真似をしてとなりの手術台に寝転がる。
 あまりに無邪気な行動に、メグルはめまいがした。

 「ふたりで四千万……、確かに振り込まれている。子ども食堂の経営資金を差し引いても、お釣りがくるほど儲かる仕事だ」

 スマートフォンの画面を見ながら金山が目を細めた。

 「……あなた、スマホで誰かから……指示を受けてますね?」

 不気味な笑みを浮かべているのが、マスク越しにでも伝わる。

 「冥土の土産に教えてあげよう。おれも人身売買の依頼者は知らないし知る必要もない。メールの指示通りに動けば金が振り込まれるからね」

 金山は躊躇ちゅうちょなくメグルの腕に注射を打つと、体を括っているロープをほどいた。

 「ほら、きみの大事な肩掛けカバンはここに置いておくよ。次は……」

 メグルのカバンを枕元に置くと、如月紬に目を向けた。

 「きみは本当に変わった子だね。恐怖という感覚がないのか……?」


 手術台の上でころころと笑う如月紬の口に、麻酔薬を染み込ませたガーゼをあてがい眠らせる。

 スイッチを切られたように寝息を立てる如月紬の腕にも注射をして、金山は手術室を後にした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★ 巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか? 死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。 終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。 壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。 相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。 軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

足が落ちてた。

菅原龍馬
ホラー
これは実際に私が体験した話です。 皆さん、夜に運転する時は気を付けて下さい。

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

長野県……の■■■■村について

白鳥ましろ
ホラー
この作品はモキュメンタリーです。 ■■■の物語です。 滝沢凪の物語です。 黒宮みさきの物語です。 とある友人の物語です。 私の物語です。 貴方の物語でもあります。 貴方は誰が『悪人』だと思いますか?

処理中です...