二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第12話 紬の家

03

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 雨宮香澄は如月紬が住む二階建てのアパートにやってきた。
 夕日に照らされたサビの浮く外階段を駆け上がり、通路の一番奥にあるドアを叩く。


 「紬ちゃん、いる? いるなら返事して!」

 なんども呼びかけるが、返事はない。


 諦めきれずにドアノブをがちゃがちゃ回していると、寝癖のついた金髪の男がドアを開けた。

 「うるせえな! 典子は仕事に行ったよ」

 無精髭を撫でながら、寝ぼけ眼で雨宮香澄の全身を舐めるように見る。

 「……あんただれ? 典子の友達じゃねえよな」

 「紬ちゃんに会いたいんです。会わせてください」

 「なんだ紬に用事? あいつは具合が悪くて寝てるんだ……ちょ待て、上がるな!」

 金髪男の言葉が終わるまえに、脇をすり抜けて部屋へ押し入った。
 腐敗した匂いが漂う流し台を横切り、廊下を埋め尽くすゴミ袋を掻き分けて奥の部屋をのぞく。

 ゴミが散乱したベッドにも、床に敷きっぱなしの布団にも紬の姿はなかった。
 後ろをついてくる金髪男に振り返って訊く。

 「……何処にいるの?」

 「知らねーよ、俺のガキじゃねえし」

 「あなた、紬の父親がわりでしょ!」

 「おれは典子……あいつの母親と付き合ってるだけ。前の男とのガキなんか知るかよ」

 寝癖頭をかきながら欠伸あくびをした金髪男の頰を、怒りに任せて平手で殴った。


 「てめっ! 何しやがる」

 金髪男が香澄を押し倒した。
 香澄は両腕を布団の上に押さえつけられた。

 顔を近づけてくる金髪男に、香澄が怒鳴る。

 「あなたが紬を虐待してるの、知ってるんだからね!」

 「ああっ? 証拠でもあんのかよ?」

 「あの子は隠そうとしたけど、紬ちゃんの体にあざを見たことがある」

 「あいつはバカだから階段からすぐ落ちるし、ポットもまともに扱えねえから火傷もするんだよ。だいたいあんなやつ放っておいても平気だろ。わんわん泣いてうるせーから真冬のベランダに閉じ込めたこともあるが、翌朝もフツーに生きてたぜ?」

 雨宮香澄がつかまれた手を離そうと暴れた。

 「離して、警察に通報して捜索願いを出す!」

 「無駄だぜ。前の男のところに行った……って警察には説明する。典子ともそうゆう話になってる」


 「……坂田佐和子とも、話はついてるのね?」

 「……驚いたな、なんでそれを知ってる」

 とつぜん雨宮香澄が抵抗をやめた。
 無気力な視線で男を見つめる香澄を見て、金髪男は手を緩めた。

 「おとなしいな、やっと覚悟を決めたか?」

 香澄はつかまれた右手を素早く抜き取り、男の目の前に握った手を見せた。


 「なんだ……?」

 訝しげに見つめる金髪男の目の前で、香澄がゆっくりと手をひろげる。


 手のなかに握られた黒い肉片が香澄の胸の上にぼたりと落ちた。

 「なんだそれ、気持ち悪りい!」
 悲鳴にも似た声を上げて、男が飛び退いた。

 香澄はゆっくりと立ち上がり、もう一度右手を握りしめ、腰を抜かしている男の目の前に突き出した。

 「さっきのはあなたの脾臓ひぞう……。そしてこれはあなたの腎臓じんぞう……」

 香澄が開いた手の平から、赤黒い肉片がふくれあがる。
 ぼたりと男の目の前に落としたとたん、男がうめき声をあげて苦しみだした。


 「よく聞きなさい、間男のきみ……。もし紬の内臓が抜き取られていたら、あなたの内臓をさらに抜き取るわ……。
 もし紬がすでに死んでいたら……あなたの命もないと思いなさい」


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