二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第10話 小野寺さん

06

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 「メグルくん、忘却蝋燭ぼうきゃくろうそく……」

 メグルが気が付いたように、カバンをまさぐり紫色の太い蝋燭を取り出した。
 続けて取り出したマッチで火をつけているあいだに、雨宮香澄は加藤誠司のロープをほどく。

 「誠司くん、メグルくんの蝋燭の火を見て」

 香澄に言われて、訳もわからず誠司はメグルが持つ蝋燭の火を見つめた。
 その火をメグルが吹き消す。
 とたんに香澄は笑顔で誠司に話しかけた。

 「誠司くん目を覚まして! まだ寝ぼけてるの?」

 誠司がぽかんと辺りを見回す。

 「あれ香澄……メグルまで、何でここに……?」

 「調免試験の勉強で疲れてるのよ、配達先で寝ちゃうなんて……。メグルくんと一緒に探し回ってたら、小野寺さんからウチで寝てるって電話があって……もう笑える!」

 「やっべ、マジか。疲れてるんだな、ぜんぜん記憶がねぇ……。いま何時?」

 「もう九時過ぎよ。またどっかで寝ないように『つながり』には寄らずに家に帰ってね」

 「おっけ……メグルもありがとな! じゃあ明日、また『つながり』で!」

 部屋を飛び出していった誠司が、とつぜん戻って顔を出す。
 「小野寺さんにも挨拶しないと!」

 「じいさんもう寝てるし……。わたしが代わりに挨拶しとくから、もう行きなよ」

 雨宮香澄が笑顔で送り出した。
 家の外から、加藤誠司が自転車を漕ぐ音が遠のいていく。
 部屋の中はメグルと香澄、そして小野寺の死体が残された。


 「……二条美華、いまごろ何しにきたんですか?」

 コートに手を突っ込んだ雨宮香澄が、冷めた視線で小野寺の死体をじっと見下ろしている。

 「わたしの……雨宮香澄の幼なじみが殺人犯になるのは、さすがに忍びないでしょう?」

 「何をいまさら、もう手遅れだ! 加藤誠司は殺人を犯し試練星が一気に増えた。もう堕界だかいどころじゃ済まされない!」

 「その星も、じきに消える……」

 小野寺にかけた毛布が異様にうごめき出した。
 驚いてメグルが毛布をめくると、小野寺がぜえぜえと息を吹き返していた。

 思わずメグルは床に膝をつき、深く安堵の息を吐いた。
 そして香澄を見上げる。

 「……人間界に、干渉しないんじゃなかったんですか?」

 「もちろん、誠司くんを助けるのだけが目的じゃないし、小野寺もこのままじゃ、そのうち死ぬ」

 雨宮香澄がコートのポケットから魔捕瓶を取り出して、メグルの目の前に差し出した。


 「選択肢はもうない。でしょ……?」


 差し出された魔捕瓶を、メグルは受け取った。
 覚悟を決めて、魔捕瓶のコルク栓を抜き取る。

 真珠色に輝く粒子が霧となって勢いよく吹き出し、暗い六畳一間の和室を眩しいほどの光で包んだ。
 やがて霧は渦を巻いて小野寺の体に吸い込まれていく。

 「……がはっ」

 小野寺が大きく息を吐き、体を起こした。
 折れ曲がった首を自らの手でゴキゴキと治す。


 「お姉さま!」


 雨宮香澄が、白髪頭の老人である小野寺に抱きついた。

 「……酷いわね美華さん、わたしに恨みでもあるわけ……? あなただけこんな若々しくて美しい体を手に入れるなんて……」

 雨宮香澄の体を羨ましそうに撫でまわす小野寺。
 その様子を、メグルは複雑な気持ちで見ていた。

 理由を知らない第三者が見たら、とても不健全な光景だ……。

 その小野寺の体に憑依した二条杏香が、鋭い視線をメグルに投げた。
 とっさにメグルは魔捕瓶を掲げて牽制する。

 「……今夜は見逃してあげるわ。というより、この体じゃ何もできやしないから……」

 射るような視線とは裏腹に弱気な発言をした小野寺は、気が付いたように雨宮香澄に向き直った。

 「美華さん、あなたわざと……」
 言いかけたとたん、腰に手を当て膝から崩れ落ちた。


 「ああ、腰が痛い……美華さんマッサージして……。あとこの家、汚すぎるしカビ臭い……。アロマを焚いて頂戴……」

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