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第10話 小野寺さん
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「…………なんだぁっ!」
あわてふためいた小野寺が、手にした赤いマントをひろげる。
マントからするりと畳に落ちたのは、メグルを巻いていたはずのロープ。
訳がわからず、そのロープに手を伸ばそうとしたとき、畳の上に伸びる背後からの影に小野寺は気がついた。
「この紅いマントはな……サヤカが絶命したとき、手首から吹き出す血で染まったものだ……」
とっさ振り返った小野寺が見たのは、障子越しの青白い明かりを背に立つメグルの姿。
烈火のごとく怒りに染まった瞳で睨みつけている。
「己の人生の絶望を欲で誤魔化す臆病者のきさまが、地獄界でなお信念に生きるサヤカの血を汚いなどと……っ!」
メグルがバットを拾い上げる。
腰を抜かした小野寺が、さらしから包丁を抜き取り叫んだ。
「ああっ、なんだてめぇ! おれを殺すのかぁ! やってみろクソガキが! 怖かねぇぞ!」
握りしめた包丁をメグルに向けながら、足を引きずり立ち上がる。
その小野寺の体が、とつぜん真横に吹っ飛んだ。
人間が出した音とは思えぬほどの鈍く大きな音を立て、小野寺は壁に頭を打ち付けた。
ゆっくりと畳に倒れた小野寺の首はあらぬ方向へと曲がり、ひゅうひゅうと小さな音を立てて半開きの口から息がもれている。
小野寺と重なるように倒れた加藤誠司が体を起こした。
加藤誠司がロープで括られたままの体で、小野寺に突っ込んだのだ。
「誠司くん……」
星見鏡をかけたメグルの目に、墨を垂らしたような水晶玉が、誠司の頭上にいくつも浮かび上がっていくのが見える。
「なんてことを……」
「お前みたいな子どもに人殺しをさせる訳にはいかねえよ……。それにこいつは、おれたちの先輩やダチを売った仇だ」
加藤誠司が息を震わせながら、動かなくなった小野寺を見つめる。
そのとき、玄関の引き戸を開ける音がした。
とっさにふたりは物陰に隠れようと辺りを見渡したが、もう余裕がない。
廊下を歩く音が近づいてくる。
「メグル、おれの背後に隠れてろ! もう何人殺そうが同じだ!」
「だめだ誠司くん、ここはぼくに任せて!」
メグルが畳に落ちているマントを拾い上げ、誠司の体に巻き付けようとした瞬間、
「香澄……」
加藤誠司の言葉に、メグルが顔を上げる。
ドアを開けて現れたのは雨宮香澄だった。
雨宮香澄はふたりに目を合わせることもなく、横たわる小野寺のそばにしゃがんだ。
「俺が殺した……メグルは関係ねぇ……」
雨宮香澄は何もこたえず、ただ小野寺の折れた首に手を添えている。
やがて立ち上り、押入れに突っ込んであったカビの生えた毛布を小野寺の体にかけるとメグルに目を向けた。
「メグルくん、忘却蝋燭……」
あわてふためいた小野寺が、手にした赤いマントをひろげる。
マントからするりと畳に落ちたのは、メグルを巻いていたはずのロープ。
訳がわからず、そのロープに手を伸ばそうとしたとき、畳の上に伸びる背後からの影に小野寺は気がついた。
「この紅いマントはな……サヤカが絶命したとき、手首から吹き出す血で染まったものだ……」
とっさ振り返った小野寺が見たのは、障子越しの青白い明かりを背に立つメグルの姿。
烈火のごとく怒りに染まった瞳で睨みつけている。
「己の人生の絶望を欲で誤魔化す臆病者のきさまが、地獄界でなお信念に生きるサヤカの血を汚いなどと……っ!」
メグルがバットを拾い上げる。
腰を抜かした小野寺が、さらしから包丁を抜き取り叫んだ。
「ああっ、なんだてめぇ! おれを殺すのかぁ! やってみろクソガキが! 怖かねぇぞ!」
握りしめた包丁をメグルに向けながら、足を引きずり立ち上がる。
その小野寺の体が、とつぜん真横に吹っ飛んだ。
人間が出した音とは思えぬほどの鈍く大きな音を立て、小野寺は壁に頭を打ち付けた。
ゆっくりと畳に倒れた小野寺の首はあらぬ方向へと曲がり、ひゅうひゅうと小さな音を立てて半開きの口から息がもれている。
小野寺と重なるように倒れた加藤誠司が体を起こした。
加藤誠司がロープで括られたままの体で、小野寺に突っ込んだのだ。
「誠司くん……」
星見鏡をかけたメグルの目に、墨を垂らしたような水晶玉が、誠司の頭上にいくつも浮かび上がっていくのが見える。
「なんてことを……」
「お前みたいな子どもに人殺しをさせる訳にはいかねえよ……。それにこいつは、おれたちの先輩やダチを売った仇だ」
加藤誠司が息を震わせながら、動かなくなった小野寺を見つめる。
そのとき、玄関の引き戸を開ける音がした。
とっさにふたりは物陰に隠れようと辺りを見渡したが、もう余裕がない。
廊下を歩く音が近づいてくる。
「メグル、おれの背後に隠れてろ! もう何人殺そうが同じだ!」
「だめだ誠司くん、ここはぼくに任せて!」
メグルが畳に落ちているマントを拾い上げ、誠司の体に巻き付けようとした瞬間、
「香澄……」
加藤誠司の言葉に、メグルが顔を上げる。
ドアを開けて現れたのは雨宮香澄だった。
雨宮香澄はふたりに目を合わせることもなく、横たわる小野寺のそばにしゃがんだ。
「俺が殺した……メグルは関係ねぇ……」
雨宮香澄は何もこたえず、ただ小野寺の折れた首に手を添えている。
やがて立ち上り、押入れに突っ込んであったカビの生えた毛布を小野寺の体にかけるとメグルに目を向けた。
「メグルくん、忘却蝋燭……」
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