二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

文字の大きさ
上 下
46 / 70
第10話 小野寺さん

03

しおりを挟む
 「……おいメグル、気が付いたか?」

 うっすらと開けた目に、暗い和室の天井と、心配そうに覗き込む加藤誠司の顔が映る。
 メグルは体を起こそうとするも、バランスを崩してカビ臭い畳に顔を打ち付けた。

 メグルの体はロープでぐるぐる巻きにされていた。
 それでもなんとかして半身を起こす。

 「誠司くん、いつからここに……?」

 障子越しに漏れてくる青白い街灯の明かりが、加藤誠司の消沈した横顔を照らす。
 もう外はすっかり日が暮れていた。


 「学校の帰り道にボロい商用車に乗った二人組にチャリごと拉致された。一人は小野寺さんだった……。何でこんなことするのか、ほんともう訳わかんねぇ……」

 そのとき、ドアの外から足を引きずる音が聞こえてきた。続いてドアノブから鍵を刺す音が響く。
 あわててふたりは横になって気絶しているふりをした。

 「だから麻酔が薄いって言ったんだ。それで木下は一人逃してるってのに、またケチって安物よこしやがって……」

 ドアを開けて小野寺が入ってきた。腹に巻いたさらしに錆びた包丁を突っ込み、手には金属バットを握っている。

 「もう起きてんだろ、わかってんだよ!」

 小野寺の怒号に観念して、メグルと誠司が体を起こす。

 「逃げようとか思うんじゃねぇぞ。ただでさえ今月は出荷が滞って、金山さん、かんかんに怒ってるんだからよ」

 「……出荷がなんですって?」

 眉をひそめてメグルが訊ねると、小野寺は口元を歪めて吐き捨てるように言った。


 「雨宮香澄十五才は出荷直前に自殺を装って逃亡。代わりの加藤誠司十七才は邪魔が入って昨日の出荷予定日を守れなかった。だから罰として、今月はお前みたいな小学生のガキまで追加で出荷されることになったんだ。……売られるんだよっ!」

 思いもよらない現実に、ふたりが絶句する。
 
 「人身売買をするようになってもう一年か……。おれだけで四~五人は誘拐してるから、全部で十五人くらいは出荷されてんじゃねぇかな?
 金山さんはな、以前は純粋に慈善活動として『つながり』に資金提供していたが、いまじゃすっかり人身売買のために金を出しているんだ。坂田佐和子が丹精込めて育てた健康な人間の、内臓や目ん玉をえぐり出して海外に売り飛ばすそうだぜ?」

 小野寺が下品な笑い声をあげた。

 「そんな酷いことをして、あんたは心が痛まないのか! 子ども食堂には、貧困で満足にご飯を食べられない親子や、人との交流を求めてやってくる子どもたちばかりなんだぞ!」

 メグルが顔を真っ赤にして怒鳴るも、小野寺には全く響かない。

 「おれに文句を言うなよ……。出荷される子どもは坂田佐和子が選んでるそうだぜ」

 「……嘘言ってんじゃねぇっ!」

 今度は加藤誠司が、額に血管を浮き立たせて怒鳴った。

 「坂田さんには中坊の頃から世話になってんだ! 俺にとっては母親みたいな存在なんだ! お前の戯言たわごとなんかに騙されねぇからな!」

 しかし小野寺は余裕の表情で聞き流した。

 「さらわれたガキはみんなそう言うぜ……。さあて、売り飛ばされる健康な若者を見ながら飯でも食うか。老い先短けえジジイには、これが一番の楽しみなんだよ」

 小野寺は電灯の紐を引っぱり明かりをつけると、胡座あぐらをかいて畳に包丁を突き立てた。
 そしてメグルの届けた弁当を、ふたりの目の前で食べ始める。


 「頼みがあります……。ぼくにカバンの中の眼鏡を掛けさせてくれませんか?」

 口に白飯をほおぼりながら、小野寺が死んだような目をメグルに向ける。

 「……仕方ねぇな。いままで何人も地獄送りにしてきたおれでもよ、これから死にゆく若者の願いを叶えるくれえの情けは持ってるぜ」

 カバンをまさぐり、メグルに星見鏡を掛けさせた。
 眼鏡を掛けたメグルがまっすぐに小野寺を見つめる。


 「なんてことだ……試練星がさらに増えてる。越界者の星は偽の星だから悪事をしても増えない……。あんた、ただの人間だ……」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

輪廻と土竜 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏
ホラー
★現代社会を舞台にしたミステリーファンタジー★ 巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか? 死後、天界逝きに浮かれていたメグルは煉獄長にそそのかされ小学生として再び人間界に堕とされる。人間界管理人という『魔鬼』により別世界から送り込まれる『越界者』を捕らえる仕事をまかされたのだ。 終わりのない仕事に辟易したメグルは元から絶つべくモグラと協力してある小学校へ潜入するが、そこで出会ったのは美しい少女、前世の息子、そして変わり果てた妻の姿……。 壮絶な魔鬼との対決のあと、メグルは絶望と希望の狭間で訪れた『地獄界』で奇跡を見る。 相棒モグラとの出会い、死を越えた家族愛、輪廻転生を繰り返すも断ち切れぬ『業』に苦しむ少女ーー。 軽快なリズムでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

黄昏時のジャバウォック

鳥菊
ホラー
その正体を、突き止める術はなかった。 ※本作は小説家になろう様でも投稿しております。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

処理中です...