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第10話 小野寺さん
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渡されたメモ用紙には、小野寺様という名前と住所が書かれていた。
「なんだ、きのう誠司くんと一緒に行った、あの家だ……」
小野寺の家は住宅地から離れた場所にあり、子ども食堂から歩いて三十分ほど行った林のなかにある。
昨日は暗くてよく見えなかったが、周囲を背の高い杉の木で囲まれたその場所は、動く気配のない建設機械や年季の入った商用車、錆びついた資材などが置かれた空き地になっていた。
その空き地の入り口近くで枯れ草に覆われている板塀の平屋が小野寺の家だ。
すっかり傾いた陽が杉の木の隙間を縫って、小野寺の家をまだら模様に照らしている。
インターホンもブザーもないので玄関に向かって声を上げようとしたとき、
「おうきたな、ダンベルで殴られても半日で完治する健康な少年!」
後ろから威勢のいい声がかけられた。
振り返ると、小野寺が満面の笑みで立っていた。
「ああ小野寺さん、『つながり』のお弁当をお持ちしました」
「まあ、ちょっと上がれや。いまお茶を出すからよう」
玄関の引き戸を開けて、小野寺が中へ入る。
「あっ結構です。家の中には入るなって……」
「いたた、痛っ! 足が……」
小野寺がとつぜん足を抑えて苦しみ出したので、メグルがあわてて体を支えた。
「悪いな……ちょっと部屋に連れてってくれるかい」
メグルの肩に手をかけ、小野寺が足を引きずりながら家に上がる。
「いつもありがとな……。少し駅から離れただけで、こんな何もねぇ殺風景な田舎だろ? 足が悪いと買い物も億劫になっちまうし、おれみたいな年金暮らしのジジイには、あんたみたいに弁当を配達してくれる子がいると助かるよ」
「小野寺さん、年金暮らしなんですか?」
「ああ、でも年金だけじゃ生きていけねぇよ。おれは若い頃から飲む打つ買うが生き甲斐で、すっかり散財しちまったからよ、貯金がねえんだ」
「それは大変ですね。じゃあ『つながり』のお弁当は助かるでしょう?」
「ああ、『つながり』には助けてもらってばっかりだ。儲かる仕事まで世話してくれて……。あ、そこの部屋だ。いま鍵開けるから……」
小野寺がベルトにぶら下げた鍵でドアを開ける。
「家のなかで鍵を掛けるんですか……」
その様子を不思議そうに見ていたメグルに、小野寺は不気味な笑みを浮かべながら小声で耳打ちした。
「こんなかにな、五〇万円隠してんだ」
どうせ冗談だと愛想笑いを浮かべていたメグルの目に、思いがけない光景が映る。
障子越しの夕日が差し込む六畳一間の和室に、ロープで括られた青年が横たわっていた。
「加藤……誠司くん……?」
メグルの背中越しに小野寺が耳元でささやく。
「おまえで一〇〇万だ……」
いきなり口元にタオルのようなものを押し当てられ、メグルは気を失ってしまった。
「なんだ、きのう誠司くんと一緒に行った、あの家だ……」
小野寺の家は住宅地から離れた場所にあり、子ども食堂から歩いて三十分ほど行った林のなかにある。
昨日は暗くてよく見えなかったが、周囲を背の高い杉の木で囲まれたその場所は、動く気配のない建設機械や年季の入った商用車、錆びついた資材などが置かれた空き地になっていた。
その空き地の入り口近くで枯れ草に覆われている板塀の平屋が小野寺の家だ。
すっかり傾いた陽が杉の木の隙間を縫って、小野寺の家をまだら模様に照らしている。
インターホンもブザーもないので玄関に向かって声を上げようとしたとき、
「おうきたな、ダンベルで殴られても半日で完治する健康な少年!」
後ろから威勢のいい声がかけられた。
振り返ると、小野寺が満面の笑みで立っていた。
「ああ小野寺さん、『つながり』のお弁当をお持ちしました」
「まあ、ちょっと上がれや。いまお茶を出すからよう」
玄関の引き戸を開けて、小野寺が中へ入る。
「あっ結構です。家の中には入るなって……」
「いたた、痛っ! 足が……」
小野寺がとつぜん足を抑えて苦しみ出したので、メグルがあわてて体を支えた。
「悪いな……ちょっと部屋に連れてってくれるかい」
メグルの肩に手をかけ、小野寺が足を引きずりながら家に上がる。
「いつもありがとな……。少し駅から離れただけで、こんな何もねぇ殺風景な田舎だろ? 足が悪いと買い物も億劫になっちまうし、おれみたいな年金暮らしのジジイには、あんたみたいに弁当を配達してくれる子がいると助かるよ」
「小野寺さん、年金暮らしなんですか?」
「ああ、でも年金だけじゃ生きていけねぇよ。おれは若い頃から飲む打つ買うが生き甲斐で、すっかり散財しちまったからよ、貯金がねえんだ」
「それは大変ですね。じゃあ『つながり』のお弁当は助かるでしょう?」
「ああ、『つながり』には助けてもらってばっかりだ。儲かる仕事まで世話してくれて……。あ、そこの部屋だ。いま鍵開けるから……」
小野寺がベルトにぶら下げた鍵でドアを開ける。
「家のなかで鍵を掛けるんですか……」
その様子を不思議そうに見ていたメグルに、小野寺は不気味な笑みを浮かべながら小声で耳打ちした。
「こんなかにな、五〇万円隠してんだ」
どうせ冗談だと愛想笑いを浮かべていたメグルの目に、思いがけない光景が映る。
障子越しの夕日が差し込む六畳一間の和室に、ロープで括られた青年が横たわっていた。
「加藤……誠司くん……?」
メグルの背中越しに小野寺が耳元でささやく。
「おまえで一〇〇万だ……」
いきなり口元にタオルのようなものを押し当てられ、メグルは気を失ってしまった。
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