二条姉妹 篇 人間界管理人 六道メグル

ひろみ透夏

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第8話 配達

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 すっかり陽の落ちた田舎道を、自転車で十五分ほど走った場所にその家はあった。
 雑草に半分埋もれた、とても人が住んでいるとは思えない苔むした板塀の平屋――。
 まわりは林に囲まれていて、ほかに隣家らしき建物は見当たらない。

 「表札出てねーけど、スマホの地図はここを指しているな」

 家のまえに立つ街灯だけが、青白い光で辺りを照らしている。

 「小野寺おのでらさ~ん、弁当届けにきましたよ~」

 メグルと加藤誠司が門の前で待っていると、玄関の引き戸のガラスに弱々しい明かりが灯った。
 やがて白髪頭の細身の老人が、覚束おぼつかない足取りで出てきた。

 「おお、きみが加藤誠司くんか。いい体つきをしてる。健康そうで何よりだ」

 とつぜん小野寺が手を伸ばし、加藤誠司の体を触ってきた。
 加藤誠司が驚いてその手を払おうとしたとき、小野寺がメグルに目を向けた。

 「……なんだ、一人じゃないのか?」

 「見習いの菅野メグルです。よろしく」

 メグルは肩掛けカバンから星見鏡を取り出してかけた。

 「ふうん、まだ若いな。いくつだ?」

 「十二歳ですけど……」

 「そうか、お前さんも元気そうだな。病気なんかしたことないだろ?」

 「はい。先日、頭をダンベルで殴られましたが、半日で完治しました」

 「そりゃあすごい! おれも今はこんなジジイだか、若い頃は体が丈夫で女にモテモテだったぞ。彼女はいるんか? おれはお前さんくらいの歳には、もう女を知っとったぞ」

 話が長くなりそうだと思ったのか、加藤誠司は早々そうそうに切り上げようとメグルの腕を引っ張った。

 「それじゃあ弁当、ここに置いてくんで。俺たちはこれで……」

 「ああ加藤誠司くん……」

 小野寺がやさしい眼差しで誠司の肩を叩いた。

 「弁当配達してくれてありがとうな。すまんが、明日もきみが届けてくれるかな?」

 「え、俺がですか……。わかりました、じゃあ!」



 帰り道は、加藤誠司が配達用バッグを畳み、メグルを自転車の荷台に乗せてくれた。
 星が瞬く冬の澄んだ夜空を見上げながら、ゆっくりと走る。

 「人当たりのいいじいさんだったな? しかし、じいさんって自慢話が好きだよなぁ~」

 後ろの荷台にまたがったメグルが、加藤誠司の背中に訊ねる。

 「誠司くん、明日もさっきの小野寺さんのとこ行くんですか?」

 「ああ、頼まれちまったからな!」
 加藤誠司が自慢げに声をあげた。

 「嫌なこともあるけどさ、あのじいさんのために、明日も頑張ってやるかぁ~」

 白い息を吐きながら叫ぶ加藤誠司の背中で、メグルはひとりつぶやいていた。


 「試練星が十八個の、人当たりのいいおじいさんか……」

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