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第8話 配達
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見上げれば茜色に染まる空に、薄紫のグラデーションがかかり始めている。
公園から自転車で一〇分ほど走った団地で、加藤誠司は自転車を止めた。
振り返ると、へろへろになりながら走ってくるメグルの姿が小さく見える。
「あいつ、意外と根性あるな……」
団地の階段を三階まで駆け上がり、ドアの前で加藤誠司は振り返った。
「よく見とけ、絶対にドアの外で弁当を渡すんだ。中へ入るなよ」
ようやく追いついたメグルが、膝に手をついて懸命に息を整えながら頷くのを見て、加藤誠司がブザーを押した。
しばらくして勢いよくドアが開き、スウェットの上下を着た細身の若い女性が顔を出した。
「おせーよ、もう酎ハイ二缶も空けちまったよ……。あっ、誠司くんじゃん、久しぶり~っ!」
「中村さんお久っす。弁当遅くなりました」
いきなり女性が抱きついてきたが、加藤誠司は落ち着いて対応していた。
「いいのよ、誠司くんなら……ねぇ、ちょっと上がってきなよ」
中村と呼ばれた女性が酒臭い息を吐きながら腕を引っ張るが、加藤誠司は一歩も動かない。
「すんません、もう一軒配達あるんで」
「ええ~っ、いいじゃん、ちょっとくらい付き合ってよ」
「……赤ちゃん、泣いてますから」
女性の背後から赤ちゃんの泣き声がする。
振り返った女性は部屋の中に向かって舌打ちした。
玄関から廊下まで缶酎ハイの空き缶などが入ったゴミ袋で埋まり、部屋の様子は伺えない。
「……ったく、夜中も明け方もず~っと泣いてんの。ノイローゼになっちまうよ」
「たまには子ども食堂、来てくださいよ。赤ちゃん連れのお母さんもよく来るんですよ」
「……わたし、あーゆーとこ苦手。じゃあね」
大きな音を立てて玄関のドアが閉まる。
加藤誠司はメグルに振り返ると、ふんっと鼻を鳴らして笑顔を見せた。
「結構メンタルにくるだろ? 初めて見るやつはショックだよな」
階段を下りながら、話を続ける。
「俺の家もあんなんだったから別に慣れたもんだけど、俺のダチは配達始めてから、いつのまにか子ども食堂に来なくなっちまったよ。中坊の頃からずーっと『つながり』に来てたやつがそれきりだぜ。あそこでしか会ったことないから家とか知らないし、携帯で連絡も取れなくなるし……」
「えっ、連絡も取れなくなるんですか?」
公園から自転車で一〇分ほど走った団地で、加藤誠司は自転車を止めた。
振り返ると、へろへろになりながら走ってくるメグルの姿が小さく見える。
「あいつ、意外と根性あるな……」
団地の階段を三階まで駆け上がり、ドアの前で加藤誠司は振り返った。
「よく見とけ、絶対にドアの外で弁当を渡すんだ。中へ入るなよ」
ようやく追いついたメグルが、膝に手をついて懸命に息を整えながら頷くのを見て、加藤誠司がブザーを押した。
しばらくして勢いよくドアが開き、スウェットの上下を着た細身の若い女性が顔を出した。
「おせーよ、もう酎ハイ二缶も空けちまったよ……。あっ、誠司くんじゃん、久しぶり~っ!」
「中村さんお久っす。弁当遅くなりました」
いきなり女性が抱きついてきたが、加藤誠司は落ち着いて対応していた。
「いいのよ、誠司くんなら……ねぇ、ちょっと上がってきなよ」
中村と呼ばれた女性が酒臭い息を吐きながら腕を引っ張るが、加藤誠司は一歩も動かない。
「すんません、もう一軒配達あるんで」
「ええ~っ、いいじゃん、ちょっとくらい付き合ってよ」
「……赤ちゃん、泣いてますから」
女性の背後から赤ちゃんの泣き声がする。
振り返った女性は部屋の中に向かって舌打ちした。
玄関から廊下まで缶酎ハイの空き缶などが入ったゴミ袋で埋まり、部屋の様子は伺えない。
「……ったく、夜中も明け方もず~っと泣いてんの。ノイローゼになっちまうよ」
「たまには子ども食堂、来てくださいよ。赤ちゃん連れのお母さんもよく来るんですよ」
「……わたし、あーゆーとこ苦手。じゃあね」
大きな音を立てて玄関のドアが閉まる。
加藤誠司はメグルに振り返ると、ふんっと鼻を鳴らして笑顔を見せた。
「結構メンタルにくるだろ? 初めて見るやつはショックだよな」
階段を下りながら、話を続ける。
「俺の家もあんなんだったから別に慣れたもんだけど、俺のダチは配達始めてから、いつのまにか子ども食堂に来なくなっちまったよ。中坊の頃からずーっと『つながり』に来てたやつがそれきりだぜ。あそこでしか会ったことないから家とか知らないし、携帯で連絡も取れなくなるし……」
「えっ、連絡も取れなくなるんですか?」
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